第10回国際音響振動シンポジウム(ICSV)に参加して
 
著者:石井 憲(水産情報工学部海洋情報工学研究室長)
出張先:スウェーデン(ストックホルム)
 
 第10回国際音響振動シンポジウムICSV(International Conference on Sound and Vibration)が,平成15年7月4日〜7日,スウェーデンのストックホルムで開催されました。会場の王立工科大学は丘の麓にあって,外壁は赤いレンガで175年の歴史を感じさせますが,教室の中は最新の設備が設置されています。開催時期は夏休み中であり,静かな雰囲気で研究発表や討論が進みました。
 この会議は1994年から毎年1回各国で開催されていて前回はアメリカで開催されました。次回は2004年7月にロシア,セントペテルスブルクで開催されます。発表された研究論文は,振動や騒音を主題にした論文が多く,今回の発表論文数は一般論文が624件,キーノートスピーチが7件でした。これらの論文が4日間にわたり13会場で,パラレルに発表されました。キーノートスピーチの1つとして,ドイツの自動車メーカーからコンピュータを使った研究手法の変遷について紹介がありました。 
 参加者は多彩で,地元スウェーデンを含む欧米各国は勿論,アジアからも日本より参加者が多い大韓民国を筆頭に多くの参加者がありました。米国音響学会に比べると欧州各国の研究者が中心となって精力を注いでいるのが伺えます。
 分野別に見ますと,水中音響が28件,船舶騒音に関連した雑音制御や統計的エネルギー解析法(SEA法)が31件,計測関連の論文が16件,有限要素法(FEM)や境界要素法(BEM)の数値計算が21件,更には最新の信号処理に関する論文が18件ありました。
 水中音響の分野では,海底埋設物の危険度アセスメントとターゲットストレングス/散乱の2つのセッションが設けられました。前者は,欧州連合(EU)として進められた海底埋設物の検知と画像化の技術開発と危険度アセスメントを行うプロジェクトの発表でした。私は後者のセッションに参加しました。「頭足類のターゲットストレングス測定のための送受波器周回システムにおけるノイズ低減」と題して,@駆動機構のパワーラインに対するノイズ対策とその効果、A水槽内の音響雑音に対して効果のある超音波計測手法の2点について述べました。この課題は,音響資源調査のニーズの高いスルメイカ等イカ類のターゲットストレングスなど音響特性を明らかにするものです。水産情報工学部の澤田主任研究官との共同研究です。同セッションではその他に,ネットワークを組んだパッシブアレイによる発音源の構造の推定,多層構造の水中物体の散乱解析,等が発表されました。
 音響分野は,数値計算の利用が進んでおり,プランクトンのように測定の難しい対象物に対しては先に理論モデルが提唱されてきました。会場でも音響の測定結果について,その際使った理論モデルの由来の方に関心がいくようです。報告例も多くなってきましたから,今後は,実測によるモデルの検証が重要になってくると思われます。
 また,学内騒音振動関連部門の研究施設の見学ツアーがあり,実験の様子をデモをまじえて見学できました。シンポジウムのアブストラクト集,CD−ROMプロシーディングスの閲覧をご希望の方は,筆者までご連絡下さい。