定置網(落網)の急潮被害防止(台浮子の浮力調整による錨綱張力の削減)

[要約]矢引台浮子は、運動場側にある台浮子である。矢引台浮子の浮力を増大させることにより、錨綱にかかる張力が削減できることが分かった。これにより、定置網急潮被害から守ることができると同時に、浮子方からの魚群の逃出が減少することによる漁獲性能の向上も期待できる。

神奈川県水産総合研究所 相模湾試験場

連絡先

0465-23-8531

推進会議
 

水産工学
 

専 門
 

漁業生産
 

対 象
 

魚類
 

分 類
 

普及
 
【背景・ねらい】
 相模湾における定置網の急潮被害は、過去14年間に80件を越え、被害金額は25億円を上回ると推算される。この被害を防止するため、錨綱の張力の削減方法を検討する。
 
【成果の内容・特徴】
1.矢引台浮子の浮力を現有浮力(4トン)の2倍から5倍まで変化させたときの矢引台錨綱 にかかる張力と削減率を図2,3に示す。その結果、
(1)矢引台浮子の浮力の増大により同錨綱の張力が漸減する。
(2)急潮時の事例として、1.5ノット時の錨綱張力値を調べると、現有浮力の時には97トン、  浮力2倍で89トン(削減割合8.2%)、3倍で85トン(同12.3%)、4倍で79トン(同18.  6%)、5倍で75トン(同22.7%)である。
(3)張力削減率は、いずれの浮力の時にも、1.1〜1.2ノットで極大値を示し、実際に発生す  る危険性の高い急潮時に効果的であることが分かった。
2.これは、側張りの沈下を緩めることにより漁具の潮流に当たる面積(投影面積)が削減さ れることによる効果である。
3.また、側張りの沈下を緩めることにより、漁具が水面下に没することが少なくなるため、 浮子方からの魚群の逃出が減少し、漁獲性能の向上にも効果が期待できる。
 
【成果の活用面・留意点】
 実際に浮力を調整する場合には浮子の大型化が伴うので、波浪対策として連結部及び渡綱の補強が必要である。
 本研究は、定置網の網型として最も多く使われるとともに、被害発生の多い落網を対象に行ったものである。定置網にはこのほか、中層網、底層網、猪口網等があり、それぞれ特有の流体抵抗を生じる機構を有している。これらについても今後、事故防止対策の研究を進める必要がある。
 
【具体的データ】
 回流水槽(相模湾試験場 2インペラ−垂直循環型)による模型網実験
  ・模 型 網:二段落網の1/150実験模型
  ・相 似 律:田内の漁網実験比較則 流速比(0.36)力比(5.63×10-5
  ・測定項目:錨綱の張力
  ・改良項目:矢引台浮子の浮力調整
 
          図1  定置網の概要図


 
    図2  矢引台浮子の浮力倍率別の流速と錨綱張力の関係


 
   図3  矢引台浮子の浮力倍率別の流速と張力削減率との関係


 
【その他】
 研究課題名:定置網(落網)の急潮被害防止に関する研究
 予算区分:県単独予算            
 研究期間:平成9〜10年度         
 研究担当者:石戸谷 博範          
 発表論文等:1.1994年1月9日に起こった急潮現象と定置網の挙動、水産海洋研究、59(2)、1995
       2.相模湾試験場の水産工学用実験回流水槽の基本性能、神奈川県水産総合研究所
         研究報告、1、1996
       3.急潮の海況特性と落し網の防災設計、ていち、91、1997