急勾配水底下における石材の所要重量算定法に関する研究 |
[要約]海底勾配1/20程度の急勾配水底下に囲い礁などの増殖場の造成を検討する場合に必要となる流速算定係数、及び石材の重量算定係数を波浪水槽を用いた水理実験より推定した結果、1/50勾配に基づく現行の設計指針値が1/20勾配まで適用範囲を拡張できることがわかった。
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北海道立中央水産試験場 水産工学室 |
連絡先 |
0135-22-2567 |
推進会議
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水産工学
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専 門
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水産土木
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対 象
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分 類
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研究
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【背景・ねらい】
着定基質の所要重量算定に際して、着定基質が砕波帯内および砕波帯近傍に設置される場合の設計流速の算定は、沿岸漁場整備開発事業施設設計指針(平成4年度版)によれば
u=K・(gh)1/2
u:設計流速(m/s),K:流速算定係数,h:設置水深(m)
となり、Kについては海底勾配1/50の水理模型実験による実験値が与えられるとともに、海底勾配1/40〜1/10程度の急勾配斜面については現行指針値の妥当性について新たに実験等で検討を要することとなっている。近年、増殖場造成事業の進展とともに、1/20程度の急勾配の岩礁浅海域においても、囲い礁などの整備による磯根資源の増殖事業が検討されるようになってきた。本研究では、1/20急勾配下において現行の流速算定条件の適用性について検討した。
【成果の内容・特徴】
図1に示すように、波浪水槽(27.5m×1.5m×1.7m)内にステンレス製の一様勾配斜面(勾配1/20)を形成し、沿岸漁場整備開発事業施設設計指針の流速算定係数図における無次元砕波水深の設定範囲に準じて作用波の条件を設定し、砕波点を中心に、岸沖方向に7測線(図2参照)において底面より2cm及び4cmの水平鉛直2成分の流速変動を波高記録とともに計測した。更に、水路内を5水路に瀬割りし、各水路内の砕波点を中心とする幅20cmの区間に重量12g及び32gの石材(縮尺比1/25〜1/50で概算すれば中割〜特割石に相当)を敷詰密度を変化させて設置し、石材の所要安定条件を検討した(図3参照)。主要な結論を以下に示す。
砕波帯における底面流速は砕波点付近でピークをとり、砕波帯内へ進入すると次第に戻り流れに伴う短周波の発生等による小規模の波峰分裂の影響で波周期が縮小された。また、水位と底面流速の時系列はπ/4程度の位相差を生じており波動境界層の形成が示唆された。
図4は一様勾配1/20における流速算定係数Kと無次元砕波水深hb/L0の関係を示したものである。図中の黒丸は戻り流れ発生前の極大波に対応する算定係数、菱形は戻り流れ発生後の平均波に対応する算定係数である。更に、図中の白丸は、明田らにより実施された1/50勾配に対する流速算定係数の実験値を示している。また、図中の点線は水理公式集より算定された水平床における水平流速の算定値である。これより、水底勾配1/20の砕波点における底面流速の算定係数は、1/50勾配における算定係数を若干上回りながら無次元砕波水深の増加とともに曲線的に減少する傾向を示していた。更に、各最大値は水平床における水底部の水平流速値に対応する流速算定係数とほぼ同様な変化を呈しているものと考えられた。
石材は、波が連続的に作用することにより、順次分散してゆくため、今回の検討では、被災率(P)は10波作用時の分散状況について、当初設置してあった幅20cmの区間外に移動した石材について計数して算出した。
図5は、石材の安定性の指標である移動限界流速Umと石材の被災確率Pの関係を敷詰密度Dで整理した上で、石材の所要重量算定式(W=C・Um6)より重量算定係数Cを計算したものである。これより、石材の被災率が10%以下となるように計算された重量算定係数の平均値は、D=100%で1.3,D=75%で2.5,D=50%で4.8,D=25%で11程度となり、水底勾配1/50で実施された明田らの実験値と概ね一致しており、沿岸漁場整備開発事業施設設計指針における所要重量算定式は1/20の急勾配についてもほぼ成立するものと推定された。
【成果の活用面・留意点】
本検討では、被災率の算定を10波作用時の被災状況より検討しているが、その妥当性について詳細に検討すれば、現行の大きな安全率を見込んだ重量算定係数をより的確(小さめ)に設定できる可能性も残されている。なお、1/20より勾配のきつい水底においては、石材の自重による転倒移動の可能性が考えられるため、特に大きな戻り流れの発生するような設計波については注意を要する必要がある。
【具体的データ】
表1 実験諸元
図1 実験概念図
図2 底面流速計測点
図3 石材の設置方法
図4 流速算定係数
図5 重量算定係数
【その他】
研究課題名:急勾配水底下における石材の所要重量算定法に関する研究
予算区分:沿岸漁場整備事業事務費
研究期間:平成11年度(平成9〜10年度)
研究担当者:瀬戸雅文
発表論文等:急勾配水底下における石材の所要重量算定法に関する研究、
日本水産工学会学術講演会論文集、第9巻、1999.