仙台湾における実証化試験結果
本研究の内容を伝え聞いた宮城県の小型底びき網漁業者が,開発された新型漁具を導入できないか検討の依頼があった。仙台湾の底びき網漁業では年々,異体類の漁獲量が減少しており,新型漁具を導入して,近年,市場価値が高まっているサバの漁獲を増加させることが目的であった。そこで新型漁具と宮城県の既存漁具の比較操業実験を仙台湾の小型底びき網漁場においても実施した。
資料と方法
実証化試験は,成果3-1と同様に新型漁具と既存漁具を2隻の漁船で同時に並行して同じ時間(距離)曳網して漁獲結果を比べる,比較操業実験法により実施した。宮城県の小型底びき網漁船は本研究が対象とした伊勢湾の小型底びき網漁船に比べてトン数は小さいものの(9.9トン以下),機関出力は渥美外海で操業する底びき網漁船と同等,あるいはそれ以上(700kW以上)であった。したがって新型漁具を曳網するために十分な曳網能力を持ちあわせている。実験には本研究(成果1-(1)-5)で開発した漁具を使用した。現状で使用されている漁具は全長約30m,ヘッドロープ長が約28mの8枚型のトロール網であり,袖網先端の開きはヘッドロープ長の半分と仮定すると14m程度と推定され,ヘッドロープの海底からの高さはこの漁業で使用されているネットレコーダ記録より2.5m前後である。また,曳網速力は2.5ノット程度と伊勢湾周辺の漁船よりも1ノット程度遅い。
実験は2005年8月に1回,2005年10月に3回,2005年12月に2回,合計5回実施した。10月以降の実験においては,新型漁具に約8mの袖網を取り付ける改良を行った漁具を使用した。それぞれの実験における曳網時間は60-90分間とした。
2つの漁具(新型漁具と既存漁具)における漁獲物は曳網ごとに選別して種あるいは銘柄別に総重量を計測した。これらの資料を整理して,新型漁具と既存漁具の漁獲量と種組成および漁獲された種の体長の相違について検討を行った。
結果と考察
比較操業実験における新型漁具と既存漁具の漁獲物の重量組成の総計をTable 1に示した。総計では,サバ,アジ,カマス類とチダイの漁獲が新型漁具で多く,ジンドウイカとスズキの漁獲は既存漁具の70-80%となった。また,主に異体類とアイナメが占めたその他の底魚類の漁獲が既存漁具の半分以下,クサウオやギンポなど,市場価値を持たない種の漁獲が既存漁具の約10%と非常に少なくなった。次に実験月ごとの漁獲物の組成を示す。
Table 2aには8月に実施した実験における漁獲物の重量組成を示した。この実験では新型漁具がチダイを既存漁具の約3倍,サバ・アジ・カマス類を約10倍も多く漁獲した。一方,マガレイ,ソウハチなどの異体類とアイナメは新型漁具では全く漁獲されなかった。
次にTable 2bに10月に実施した実験における漁獲物の重量組成を示した。この時期に最も多く漁獲されたのは漁具にかかわらずジンドウイカであった。ジンドウイカは既存漁具でより多く漁獲され,新型漁具の漁獲量は既存漁具の約70%程度となった。一方,サバとカマスについては新型漁具の漁獲量は既存漁具の約1.5倍となった。この時期以降,漁獲され始めるスズキは,既存漁具で漁獲が多い。また,新型漁具は異体類を全く漁獲しなかった。
12月に実施した実験では,主に漁獲される種はジンドウイカとスズキであった(Table 2c)。これらの種の漁獲は既存漁具で多く,新型漁具の漁獲はジンドウイカで既存漁具の90%程度,スズキは既存漁具の半分程度に止まった。特に,投棄対象となる種(主にナヌカザメ)の漁獲は新型漁具で非常に少なく,既存漁具の10%程度しか漁獲しなかった。
以上,仙台湾における比較操業実験の結果は,実験回数が少ないにもかかわらず,伊勢湾周辺における実験結果と比較して明確であった。すなわち,新型漁具は既存漁具に比べてチダイやアジ・サバ・カマスをより多く漁獲し,ジンドウイカとスズキについては少なくなる傾向がある。また,異体類の漁獲は非常に少なくなる。また,漁獲しても選別して投棄しなければならないクサウオやギンポ,ナヌカザメの漁獲も10%程度にまで減少させることが確認できた。アジ・サバ・カマス類は伊勢湾周辺では新型漁具よりもむしろ既存漁具でより多く漁獲することができた。この違いは海域の環境やそこに生息するこれらの種の生活様式や運動能力の相違に関連するかもしれない。そしてこれに加えて,宮城県の底びき網漁船は曳網能力に余裕があり,新型漁具を既存漁具と同じ速力で曳網することができた(伊勢湾では0,3ノット以上遅い)ことも関連していると考える。すなわち,仙台湾では同じ速力で比較すると,アジ・サバ・カマス類はより網口高さが高い新型漁具で漁獲されやすかったと解釈できる。また,ジンドウイカとスズキの新型漁具による漁獲の減少についても,伊勢湾周辺における漁獲の減少割合と比べて小さい。これについても上記の2つの漁業における曳網速力が影響している可能性がある。また,ジンドウイカは小型の生物であるので,大きな目合の網地を配した新型漁具では網目を通過して漁獲が減少した可能性もある。
異体類と投棄対象種の漁獲が新型漁具で少なくなったことは,既存漁具に比べて海底を掃過する面積が小さくなることに関連するものと考えられる(成果1-(1)-5)。海底面上で生息する異体類やナヌカザメ(水工研による水中観察:未発表)は掃過面積が大きい既存網で駆集により多く漁獲されたと考えられる。
したがって本研究で開発した新型漁具は仙台湾においても時期と漁場を選べば,資源状態が懸念されている異体類をそれほど漁獲することなく,また,船上での選別を煩わしくさせる投棄対象種の混獲を減少させながら,チダイやアジ・サバ・カマスを既存漁具よりもより多く漁獲できる可能性が高い。
Table 1. Catch comparison of
sum of parallel haul experiments in Sendai-Bay.
Species |
A: semi-pelagic/bottom net (kg) |
B: Conventional net (kg) |
A / B |
ジンドウイカLoliolus beak アジ・サバ・カマス Carangidae, Scombridae, Sphyraenidae スズキLateolabrax
japonicus チダイEvynnis
japonica その他浮魚 other pelagic fish その他底魚 other ground fish 投棄対象種 discarded fish |
283.7 68.1 48.1 8.3 1.2 15.6 28.1 |
342.2 42.2 67.6 2.9 6.1 35.2 251.5 |
0.83 1.61 0.71 2.86 0.20 0.44 0.11 |
Table 2a. Result of parallel
haul experiment in Sendai-Bay carried out in August 2005 (n =1)
Species |
A: semi-pelagic/bottom net (kg) |
B: Conventional net (kg) |
A / B |
チダイEvynnis
japonica アジ・サバ・カマス Carangidae, Scombridae, Sphyraenidae 異体類 flatfish アイナメ Hexagrammos
otakii 頭足類 Cephalopods 投棄対象種 discarded fish |
8.3 3.1 0 0 0 0.3 |
2.9 0.3 2.4 1.1 2.4 1.5 |
2.86 10.3 - - - 0.20 |
Table 2b. Result of parallel
haul experiment in Sendai-Bay carried out in October 2005 (n =3)
Species |
A: semi-pelagic/bottom net (kg) |
B: Conventional net (kg) |
A / B |
ジンドウイカLoliolus beka サバ・カマスScombridae, Sphyraenidae スズキLateolabrax
japonicus 異体類 flatfish 投棄対象種 discarded fish |
116.0 64.8 32.8 0 No data |
162.0 41.6 38.0 8.6 No data. |
0.72 1.56 0.86 0 - |
Table 2c. Result of parallel
haul experiment in Sendai-Bay carried out in December 2005 (n =2)
Species |
A: semi-pelagic/bottom net (kg) |
B: Conventional net (kg) |
A / B |
ジンドウイカLoliolus beka スズキLateolabrax
japonicus 異体類 flatfish アイナメ Hexagrammos
otakii その他
others 投棄対象種 discarded fish |
167.7 15.3 3.5 1.5 11.5 27.8 |
180.2 29.6 9.0 0 17.0 250 |
0.93 0.52 0.39 - 0.68 0.11 |