伊勢湾周辺における実証化試験結果

 

 

資料と方法

 

 実証化試験は,新型漁具と既存漁具を2隻の漁船で同時に並行して同じ時間(距離)曳網して漁獲結果を比べる,比較操業実験法により実施した。中課題2「新技術と既存技術を融合した,資源管理のための操業計画の策定」で得られた中間結果からは, 9月から翌3月の間の日中に新型漁具の対象と考えられる種が出現することが報告された。そこで平成178月〜平成183月の間に伊勢湾内において新型漁具のみを使用した予備実験2回(2曳網)と比較操業実験14回(28曳網),渥美外海において比較操業実験6回(12曳網)を実施した。使用した漁船は伊勢湾内では,伊勢湾周辺で操業する代表的な底びき網漁船(伊勢湾内:12トン,127kW;渥美外海14トン,約700kW)である。使用した新型漁具は,中課題1-(1)で示した漁具を現地漁業者が改良・製作したもので,曳網中の網口開口部の寸法と曳網抵抗は中課題1-(1)で示した漁具とほぼ変わらないものの,使用する網地を網糸が細いものに変更することで身網の目合が小さくなっている。また,底魚類の漁獲を少なくすることを目的として,グランドロープとフィッシングラインをロープで連結してこの間に約15cmの隙間を設けた。この漁具の設計図と模型実験における形状をそれぞれFig. 1Table 1.に示した。この漁具を3090分間曳網する実験を実施した。

2つの漁具(新型漁具と既存漁具)における漁獲物は曳網ごとに種別に選別し,総重量を計測した。大きさは可能な限り全数を計測するようにしたが,漁獲の多かった種については,総重量のみの計測,あるいは無作為抽出した50200個体の総重量と大きさを計測した。これらの資料を整理して,新型漁具と既存漁具の漁獲量と種組成および漁獲された種の体長の相違について検討を行った。

 

 

結果と考察

 

伊勢湾内における実証試験 8月に実施した予備実験で漁獲された生物の重量組成をTable 2に示した。50分間と35分間の2回の曳網でそれぞれ1415 kgのイボダイを漁獲し,合計で29.2 kgを漁獲することができた。この時期に同じ漁場,同じ時間帯に操業を行っている標本船3隻(中課題2-2におけるR-maru, H-maru, K-maru)の89月のイボダイの漁獲をみると,26回の曳網でイボダイが漁獲されており,その幾何平均値は2.8 kg(標準偏差2.9 kg)であった。したがって新型漁具は従来の漁具に比べてイボダイなど,海底から離れて分布すると考えられる魚を十分に多く漁獲できると推測できたため,翌9月より比較操業実験を実施した。

比較操業実験における新型漁具と既存漁具の漁獲物の重量組成の912月の間の総計をTable 3に示した。伊勢湾内の漁場において,新型漁具で漁獲が増加した種はイボダイとマダイであり,その他のスズキやジンドウイカ,ヤマトカマスなどは既存漁具で漁獲が多くなった。しかし,実験は4ヶ月間に渡って実施され,その間に漁獲の傾向が変化した可能性もある。そこで比較結果を月別にTable 4a, 4b, 4c, 4dに示した。

9月に実施した実験では,予備実験と同様に新型漁具でイボダイの漁獲が多くなったが,ジンドウイカやヤマトカマス,シロサバフグなど,この時期に新型漁具の対象となる種の新型漁具による漁獲量は,既存漁具の漁獲量に対して1/31/4となった(Table 4a)。この時のヤマトカマスの体長組成を漁具別にFig.2に示した。既存漁具では体長階級17cmの個体から漁獲されはじめていることに対して,新型漁具で漁獲された最小の個体は体長階級19cmであった。このことより既存漁具より大きな目合の網地を配している新型漁具は,小さなヤマトカマスが網目を通過して逃避している可能性があった。体長階級17cmのヤマトカマスも市場価値を持つので,この大きさの個体の網目通過は漁獲の損失となり好ましくない。そこで10月以降では,新型漁具の身網上部の目合を105mmから60mmへと変更する改良を実施して比較操業実験を行った(Fig.1)。

10月の比較操業実験結果をTable 4b.に示した。この実験では新型漁具でヤマトカマス,シロサバフグ,マダイ,ジンドウイカなどを既存漁具よりも多く漁獲することができた。また,市場価値を持たない種であるが,海底から離れた層に分布すると考えられるテンジクダイの大量漁獲も確認できた。その一方でこの時期以降にスズキが漁場に出現し,底びき網で漁獲され始めたが,比較操業実験では既存漁具の1/20程度と極端に少なかった。

11月以降は,スズキが総漁獲量に占める割合が高くなり,漁獲の中心となった(Table 4c,4d)。本研究ではスズキを海底から離れた層に分布すると想定して新型漁具により漁獲量を増加させることを目標としたが,新型漁具は多くとも既存漁具の半分以下の量しか漁獲することができなかった。新型漁具でスズキの漁獲が少なかった原因については,「成果3−2」において検討・考察を行う。

 

渥美外海における実証試験 渥美外海における比較実験は200510月と20063月に3回ずつ実施した。10月の実験結果をTable 5aに示した。この時期に渥美外海ではホウボウが多く漁獲されたが,新型漁具による漁獲は既存漁具の1/2程度に過ぎなかった。また,イカ類の漁獲も既存漁具に比べて劣った。一方,カワハギやシロサバフグ,その他の浮魚は,量自体が少ないものの新型漁具で多く漁獲された。また,新型漁具では底魚類の漁獲を少なくすることができた。

次に3月に同じ漁場で実施した比較操業実験(Table 5b)では,クロダイやマダイ,そしてホウボウが主に漁獲された。10月の実験と同様に,ホウボウとイカ類の漁獲は既存漁具に比べて劣ったが,クロダイとマダイを合わせたタイ類の漁獲量は2つの漁具でそれほど相違が認められなかった。また,新型漁具では底魚類の漁獲を少なくすることができた。

 

以上の実験結果から,新型漁具を伊勢湾周辺の小型底びき網に導入した場合に,漁獲の増加が見込める対象種としては,イボダイ,タイ類,フグ類,カワハギなどが考えられる。一方,これらの種と同様に海底から離れて分布すると考えたスズキやイカ類,アジ類,ホウボウなどは漁獲量を増加させることができなかった。また,ヤマトカマスについては明確な傾向を見いだすことができなかった。新型漁具で漁獲の増加を見込める種は,すべて海底から離れて分布すると考えられ,かつ比較的体高が高い種であった。これらの種はその体型より,それほど高速で遊泳しないものと想像される。既存漁船の曳網能力の限界から新型漁具の曳網速力は最高でも3.4ノット(成果1-(1)-5)であり,既存漁具の曳網速力は最低でも3.7ノット(成果1-(1)-1)であった。スズキやアジ類,ホウボウ,ヤマトカマスなど,新型漁具で漁獲が減少した種は,増加した種と比べて高速遊泳に適した体型の種が多い。したがって,これらの種の漁獲の減少には,2つの漁具の曳網速力の相違が影響した可能性がある。また,新型漁具は既存漁具に比べて目合の大きな網地を配しているので,ジンドウイカなどの小型イカ類やヤマトカマスなど,魚体断面積の小さな生物は入網しても網目を通過した可能性もある。

 

 

 


 

Fig.1. Plan of semi-pelagic/bottom trawl net modified and manufactured by local fishermen.

 

 

 


Table 1. Comparison of design and net opening between modified and basic designs

 

Basic design (designated in chapter 1)

Modified design used this study

Overall length (m)

Head-rope length (m)

Foot-rope length (m)

Wing tip distance (m, at 3.2-3.4 kn)

Head-rope height (m, at 3.2 -3.4kn)

34.0

9.2

13.95

7 - 10

4.5

28.6

18.3

29.85

7.5

4.9 – 5.5

Values in wig tip distance and head-rope height were obtained in the model experiment.

 

 

 

Table 2. Result of tow trial in Ise-Bay carried out in August 2005 (n =2)

Species

Cacth  (kg)

イボダイPsenopsis anomala

アジ類 Carangidae

ジンドウイカLoliolus beka

その他の浮魚 other pelagic fish

29.2

1.6

1.1

1.3

 

 

 

Table 3. Catch comparison of sum of parallel haul experiments in Ise-Bay.

Species

A: semi-pelagic/bottom net (kg)

B: Conventional net (kg)

A / B

スズキLateolabrax japonicus

ジンドウイカLoliolus beak

アジ類Carangidae

シロサバフグLagocephalus wheeleri

ヤマトカマスSphyraena japonica

イボダイPsenopsis anomala

シログチPennahia argentata

マダイPagrus major

その他 others

64.2

25.2

18.8

17.1

7.4

5.5

3.5

2.1

85.0

305.9

51.2

32.8

21.4

17.6

3.0

4.1

0.2

20.6

0.21

0.49

0.57

0.80

0.42

1.82

0.85

9.62

4.13

 

 

 

Table 4a. Result of parallel haul experiment in Ise-Bay carried out in September 2005 (n =5)

Species

A: semi-pelagic/bottom net (kg)

B: Conventional net (kg)

A / B

ジンドウイカLoliolus beak

ヤマトカマスSphyraena japonica

シロサバフグLagocephalus wheeleri

アジ類 Carangidae

イボダイPsenopsis anomala

その他の浮魚 other pelagic fish

4.6

4.1

2.7

2.6

5.5

0

17.3

16.9

12.5

7.8

3.0

2.6

0.27

0.24

0.22

0.33

1.83

0

 

 

 

Table 4b. Result of parallel haul experiment in Ise-Bay carried out in October 2005 (n =4)

Species

A: semi-pelagic/bottom net (kg)

B: Conventional net (kg)

A / B

スズキLateolabrax japonicus

アジ類 Carangidae

シロサバフグLagocephalus wheeleri

ヤマトカマスSphyraena japonica

マダイPagrus major

ジンドウイカLoliolus beka

その他の浮魚 other pelagic fish

その他の底魚 other ground fish

2.0

14.6

14.6

1.7

2.1

3.6

77.8*

1.4

51.9

18.8

8.9

0.1

0.2

2.3

5.5

0.8

0.04

0.78

1.64

17

10.5

1.56

14.1

1.75

*: テンジクダイApogonidae

 

 

 

Table 4c. Result of parallel haul experiment in Ise-Bay carried out in November 2005 (n =2)

Species

A: semi-pelagic/bottom net (kg)

B: Conventional net (kg)

A / B

スズキLateolabrax japonicus

ジンドウイカLoliolus beka

アジ類 Carangidae

ヤマトカマスSphyraena japonica

シログチPennahia argentata

その他の浮魚 other pelagic fish

38.2

0

2.4

1.8

2.1

2.5

81.8

2.4

4.7

0.7

0.2

3.0

0.47

0

0.51

2.57

10.5

0.83

 

 

 

Table 4d. Result of parallel haul experiment in Ise-Bay carried out in December 2005 (n =3)

Species

A: semi-pelagic/bottom net (kg)

B: Conventional net (kg)

A / B

スズキLateolabrax japonicus

ジンドウイカLoliolus beka

アジ類 Carangidae

シログチPennahia argentata

その他の浮魚 other pelagic fish

24.0

18.14

0.9

1.4

3.3

172.2

29.23

1.5

3.1

8.6

0.14

0.62

0.6

0.45

0.38

 

 

 

Fig.2 Size distributions of Japanese barracuda captured by the semi-pelagic/bottom net and the conventional net in September 2005.

 

 

 

Table 5a. Result of parallel haul experiment in water off Atsumi Peninsula carried out in November 2005 (n =3)

Species

A: semi-pelagic/bottom net (kg)

B: Conventional net (kg)

A / B

ホウボウChelidonichthys spinosus

カワハギStephanolepis cirrhifer

ケンサキイカ Loligo edulis

コウイカ Sepia esculenta

シロサバフグLagocephalus wheeleri

その他の浮魚 other pelagic fish

その他の底魚 other ground fish

5.2

3.6

0.6

0.4

1.3

2.6

12.7

10.3

0.7

3.5

1.2

0

2.1

16.9

0.50

5.14

0.17

0.33

-

1.23

0.75

 

 

 

Table 5b. Result of parallel haul experiment in water off Atsumi Peninsula carried out in March 2006 (n =3)

Species

A: semi-pelagic/bottom net (kg)

B: Conventional net (kg)

A / B

クロダイAcanthopagrus schlegeli

マダイPagrus major

ホウボウChelidonichthys spinosus

スズキLateolabrax japonicus

タチウオTrichiurus lepturus

イカ類Lologonidae

その他の浮魚 other pelagic fish

その他の底魚 other ground fish

12.8

7.5

10.8

2.2

0.3

8.2

0.8

2.6

18.9

4.0

29.6

14.2

7.9

12.6

3.1

9.0

0.68

1.88

0.36

0.15

0.04

0.65

0.26

0.29