標本船調査による漁獲対象生物の時空間的分布の特定と

新技術と既存技術を融合した,資源管理のための操業計画の策定

 

 

資料と方法

 

標本船による操業・野帳調査 豊浜漁業協同組合所属の標準的なまめ板網漁船(12トン,主機出力127kw農林35馬力),2人乗組)から,昼・夜間操業の標本船それぞれ3隻を選出した。標本船による操業調査は,昼間標本船のR-maruおよび夜間標本船のD-maru20058の操業野帳データ欠測)とI-maru20049月の操業野帳データ欠測)は,20047月〜20058月,昼間標本船のH-maruは,200479月,昼間標本船のK- maruと夜間標本船のT-maruは,20057月〜8月にかけて実施した。標本船の操業野帳は,操業実態調査と同様の形式で漁業者に依頼した。操業野帳に記入する作業は,短時間の曳網を頻繁に繰り返すまめ板操業において大きな負担になる。そこで,操業位置と漁獲種・量の記入は,次の手順とした。操業位置については,伊勢湾の緯度・経度を2.5分毎に区切ったマス目の該当区域を投網作業後にマークし,漁獲種・量は,選別時に使用するカゴに占める嵩の記録を依頼した。このカゴ内容量の目安を重量換算するために,時期・種・サイズ別に1カゴ当りの重量を計測して換算指標を作成した。

GPS記録装置を利用した操業時刻・位置調査 操業野帳の情報に加えて,1操業毎の詳細な操業時刻・位置を把握するために,GPSGARMIN 社,16NとデータロガーKESKULL 社,DL1)(以下,GPSデータ)6隻の操業船に取り付けた。GPSデータには,各船の出港から操業を経て入港するまでの1分毎の緯度・経度,世界標準時刻,日付が記録される。GPSデータをFig.1 の手順で処理し,GIS(地理情報システム)ソフト(環境シュミレーション研究所,Marine Explorer 4)を用いて時季・種別の操業位置を表示した。

GPSデータの処理 GPSデータロガーに記録したデータの初期状態は,Fig.1に示した@の.csv 形式で保存され,緯度・経度,世界標準時刻,日付が記録されている。Aの処理では,緯度・経度をラジアンに換算し,Hubenyの距離計算(http://www.kashmir 3d.com/)を適用して2地点間の距離Dm)を求めた

  ---------1

ただし,P2点の平均緯度, dP2点の緯度差, dR2点の経度差, M:子午線曲率半径, N:卯酉線曲率半径とした。

    --------2

    ---------3

次に,緯度・経度を度,分,秒に分けて表示し,世界標準時刻を日本時刻に変換した。Hubenyの距離計算式から求めた2地点間の距離Dをデータ間隔(GPSデータが1分間隔で記録されるため,データ間隔は60秒となる)で割ることで曳網速度(m/sec)を算出し,それをノット(kt)に換算した。操業野帳に記載されている投網時間と照合し,曳網速度の3.03.5ノットが一定時間継続しているデータ区間を曳網中と判断した。また,GIS入力を簡便にするため,曳網開始(0),曳網中(1,曳網終了2)として曳網終始点コードを設定した。

GISを用いた操業位置の表示 操業野帳の漁獲物データを参照して種・時季別の操業位置を表示する方法には,Marine Explorer 4の経路機能を用いた。GISデータ入力は,Fig.1 の@,Aの処理を行なった時刻,日付,緯度・経度を度・分・秒に分け,曳網終始点コードの入力で,1曳網ごとの曳網位置を表示した。また,1日の操業で曳網した順番に色分けや線分の種類を指定して登録し,Bに示すような曳網航跡を表示した。Fig.1 の黒点は豊浜漁港の位置を示した。

 

 

結果と考察

 

標本船の出漁日数と水揚量 20047月〜058月の標本船の操業日数をFig.2 に示した。13月の冬季は,荒天や2月の15日間の禁漁,2月下旬〜3月上旬のイカナゴ漁で昼・夜間操業船共に1ヶ月当りの操業日数が212日となった。したがって,冬季の水揚量が少ない原因は,出漁日数にも起因する。また,冬季には豊浜のまめ板網漁船の漁獲対象種であるスズキやトラフグが伊勢湾外や深場へ移動し,水揚種・量共に減少する。春〜秋季は,昼・夜間標本船共に1ヶ月あたり15日前後の操業であった。この時期の休漁は,荒天による場合が多く,2004年夏季は台風によって2005年より出漁日数が減少した。

20047月〜058月の昼・夜間標本船の月別水揚量(Fig.3)は,4月から徐々に増え,夏〜秋季には23トンの月間水揚量となった。夜間標本船では,秋〜冬期は徐々に水揚量が減少し,冬季は昼・夜間標本船ともに出漁日数が少ないため,1ヶ月の年間総水揚量は0.2トン前後であった。昼間標本船の水揚量は,夏〜秋季にかけて一旦減少し,1012月に再び増加した。これは,1012月にかけてスズキ,イカ類,トラフグなどが多く水揚げされたためであった。

20047月〜057月に,操業野帳データに欠落のない夜間標本船のD丸と昼間標本船R丸で水揚げされた上位5種の月別水揚量をFig.4 に示した。マダコ,サルエビ,マアナゴの3種は昼・夜間標本船共に漁獲された。マダコは,2004年の78月にかけて両船共,月間1トンの水揚げがあったが,2005年にはマダコの水揚量は減少した。サルエビは1011月に水揚げされ,特に夜間標本船の主対象種となった。マアナゴの水揚量は4月から徐々に増加し,2005年は昼・夜間標本船ともに主要に漁獲された。

200478月に昼・夜間標本船でマダコ,マアナゴを主対象種とした操業が行なわれ,9月に入るとマダコ,マアナゴの水揚量は減少し,昼間標本船ではイカ類,夜間標本船ではサルエビ,イボダイが主対象種となった。10月〜12月に昼間標本船では,サルエビやイカ類を漁獲対象として0.60.7トンが水揚げされ,夜間標本船では,サルエビとシロギスの2種を主要対象種として23トンの水揚量となった。200513月には,昼間標本船はシャコ,夜間標本船はシロギスを主対象として操業が行なわれ,昼・夜間標本船共に3月以降に水揚量が増加した。昼間標本船では45月にシャコを0.70.4トン,57月にマアナゴを0.61.3トンを水揚げし,夜間標本船では47月にサルエビを0.60.8トン,マアナゴを0.61.0トンを水揚げした。したがって,資源量が減少傾向にあるシャコは主に昼間標本船によって漁獲され,マアナゴは昼・夜間操業船の主要対象種であった。このため,シャコを保護するには,45月の昼間操業船,マアナゴでは58月の昼・夜間操業船を対象として,離着底兼用トロール網による操業を検討する必要があろう。

離着底兼用トロール網の主要漁獲対象種の選定 豊浜漁協の水揚データと昼・夜間標本船の操業野帳から,どの時季にどのような離底種・着底種が水揚げされるかを調べ,Fig.5 に示した。その結果,周年にわたり離底種の出現があることがわかった。資源量が減少傾向にあるシャコは45月に漁獲されることから,同時季に漁獲されるイカ類,コノシロ,マアジ,マダイ,クロダイなどの離底種を代替漁獲することも可能である。マアナゴについてはヤマトカマス,タチウオ,イボダイ,イカ類などの離底種が代替となり得る。

時季・魚種別の操業位置と操業計画の策定 昼・夜間標本船の操業野帳およびGPSデータから,時季別の主要対象種の漁場をFig.6a,b 表示した。昼間標本船では,20047〜8月にかけてマアナゴとマダコを主対象として知多半島の西側沿岸と伊勢湾口が主な漁場となった。9月には知多半島の西側沿岸にマダコ,エビ類,イボダイの漁場が形成された。10月にはイカ類,エビ類,ガザミを対象として,知多半島の西側沿岸の一部と伊勢湾口付近に漁場が移動した。200411月〜20051月にかけて,スズキ,トラフグ,エビ類を対象として,伊勢湾口の一部と伊勢湾中央の広範囲に漁場が形成された。200524月には,シャコ,イカ類,マアナゴを対象に伊勢湾口,知多半島西岸沖,伊勢湾北部および中央部に漁場が散在し,58月には知多半島西岸沖の広範囲と伊勢湾口付近の3箇所が漁場となり,マアナゴを主体に多様な種が漁獲された。昼間標本船は,時季別に主対象種の変化に伴って漁場を移動する傾向が認められた。

Fig.6b に示した夜間標本船の場合は,200479月にはマダコ,マアナゴ,エビ類など多様な対象種が知多半島西岸沖に広範囲に渡って漁場を形成した。1012月には,さらに西方に漁場が移動し,エビ類,イボダイ,スズキなどが漁獲対象種となった。200513月にかけては漁場が南下し,伊勢湾口の2箇所でキス,トラフグを主対象とした。45月には伊勢湾口が漁場となり,マアナゴ,エビ類,イカ類が漁獲対象となった。68月にはマアナゴやエビ類など対象として,知多半島西岸域と伊勢湾口に漁場が形成された。夜間標本船は,エビ類の漁場形勢に合わせて移動し,1日の操業を通じてエビ類を主対象に操業する傾向が認められた。

次に,昼・夜間標本船の操業野帳およびGPSデータから,Fig.7 離底種の操業位置を時季別に表示した。冬季の漁獲対象となるスズキ,トラフグ,シロギスなどの離底種の漁場は,伊勢湾口中央に形成された。また,秋〜冬季の夜間操業船では,伊勢湾口中央海域でサルエビなどのエビ類を漁獲するが,まめ板漁業の漁獲対象となるエビ類は,遊泳亜目に属し(武田,1986),日周鉛直移動によって夜間は離底遊泳する種である。したがって,秋〜冬季にかけて昼・夜間操船業共に離底種や夜間のエビ類を対象として離底トロール網を利用する操業の可能性がある。春季には,コノシロ,クロダイ,ヤマトカマス,イカ類などの離底種が知多半島の西岸沿岸域に漁場を形成した。また,資源量減少種のシャコやマアナゴなどの着底種も次第に漁獲され始める。したがって,春季には離底種の漁獲が見込まれる操業時には,船上で漁具の交換を行ない,離着底兼用トロール網による操業も可能である。夏〜秋季にかけては,現用底曳網による操業でマアナゴやマダコ,ガザミなどの着底種が多く漁獲されていた。離底種では,ヤマトカマス,サバフグ,マアジ,マダイ,イボダイ,スズキなどが漁獲され,漁場は知多半島西岸の沿岸域から伊勢湾中央まで広範囲に形成されていた。10月以降には着底種の漁獲対象種やその漁獲量が減少する。したがって,着底種が減少し始める秋季には離着底兼用トロール網の利用が有効となる。通常,当業船は当日の漁獲種をみて,翌日使用する漁具を選択している。また,2組(シャコ対象,スズキ対象)の漁具を船に常備し,揚網後や移動中に特定種の漁獲を目的として網交換や沈子の付加・削除なども頻繁に行っている。このような実情を考慮すると,離着底兼用トロール網を船に常備し,離底種の漁獲が望める操業時に網を交換することは可能である。したがって,現用網と離着底兼用トロール網の併用運用によって,漁獲対象種の選択肢が広がり,資源量減少種への漁獲圧軽減につながる操業も可能になるものと考えられた。

以上の解析・考察結果から,現用網と離着底兼用トロール網を用いた操業計画(併用方法)を昼間・夜間操業船・時期別にFig.8に提案する。

 

 

今後の課題

 

伊勢湾におけるまめ板漁業は,多様な種を漁獲しているが,日々の操業は,前日の自船や他船の水揚動向を分析し,当日の主対象種を定めて操業する。また,他の地域で行われているビームトロール等の小型底曳網操業に比べ,まめ板操業は3ノット程度の船速で曳網する効率的な漁法で(朝田ら,1986年),短時間に多くの漁獲が望めるが,その反面,特定の種に対する漁獲圧が高くなりがちである。したがって,特定の漁場に多くの漁船が密集する場合には漁獲努力が集中し,これを繰り返すことでシャコやマアナゴなどの着底種に過剰な漁獲圧がかかるものと考えられる。また,まめ板網漁業の対象種である着底種は,漁場環境の影響を受けやすいことや,夏季を中心に発生する貧酸素水塊が着底種の資源状態に影響を与えていることも指摘されている(水産庁 Web : http://www jfa.maff.go.jp/sigen/isewan.html

多くの漁船が同一種を集中的に水揚げすると,その種の単価が低下し,水揚金額が減少する。漁業者はこの値崩れ防止策の1つとして,多様な種の水揚げで対応している。したがって,離底種を効率的に漁獲することは,今後の漁家経営の安定と資源量危惧種に対する漁獲圧の減少に対処する方法になり得る。一方,離底種を主対象として操業する場合,着底種と比較してその単価が低い場合が多く,より大量の離底種を漁獲することで水揚金額の維持を図ることも考えられる。しかし,大量漁獲は資源の悪化を引き起こしかねない。資源の有効利用には,漁獲対象種の生態と漁獲の実態を明らかにした漁獲方策を検討する必要がある(大富ら,1989)。既存の底曳網漁具では離底種を十分に漁獲しきれていない(松下ら,2005)ことから,漁場形成に関する知見も本研究で得られた知見だけでは不十分であろう。今後,離着底兼用トロール網の実操業を重ね,離底種の日周活動や遊泳水深,漁具に対する行動などの知見をさらに得て,より合理的な操業指針の提示に繋ぐことが必要である。

 

 

参考文献

 

朝田英二,船越茂雄,石井克也.沿岸漁船漁業における経済生産性の解明-伊勢湾のまめ板漁業-(昭和60年度).1986;愛水試C6610-2645-49

松下吉樹,冨山 実,熊沢泰生,稲田博史,木下弘実,平山 完,藤田 薫,山崎慎太郎.伊勢湾底びき網漁業で使用されるトロール網に取り付けたカイトによる網高さの変化.水産工学研究所技報 2005 2797-103

大富 潤,朴 鍾洙,清水 誠.東京湾におけるシャコの分布と小型底曳網漁場との関係.日水誌 1989551529-1538

武田正倫.東京水産大学第9回公開講座編集委員会,:世界のエビ類,「日本のエビ・世界のエビ」.成山堂,東京,pp.4-271986

 

 

 


Fig.1 Procedure of data processing for the trawl towed positions from GPS Logger Records.

 

 

 


Fig.2 Monthly change on fishing days of the sampled small trawlers.

 

 

 


Fig.3 Monthly change on landed weight of the sampled small trawlers.

 

 

 


Fig.4 Monthly change on landed weight of the top five species of the sampled small trawlers.

 

 

 


          Jan.    Feb.    Mar.    Apr.    May.    Jun.    Jul.    Aug.   Sept.    Oct.    Nov.    Des. 

Off bottom species

Japanese whiting

Blow fish

Sea bass

Gizzard shad

Squids

Horse mackerel

Red sea bream

Thread-sail filefish

Black sea bream

Offshore pony fish

Japanese barracuda

White chestnut puff

Butter fish

Hairtail

On bottom species

Mantis shrimp

Conger eel

Swimming crab

Common octopus

Southern rough shrimp                                                                                                                                                              

 


Fig.5 Monthly change of targetable species for on-and-off bottom small trawlers in Ise Bay.

 

 

 


Fig.6a. Seasonal change on the fishing ground and target species for sample of small trawlers ( July 2004 to July2005, Day time operation) in Ise Bay.

 

 

 


Fig.6b. Seasonal change on the fishing ground and target species for sample of small trawlers (July 2004 to July2005, Night time operation) in Ise Bay.

 

 

 


Fig.7 Seasonal change of the fishing ground and targetable off bottom species for small trawler in Ise Bay.

 

 

 


 

 


 

Fig. 8. Operation plans and targetable species for using new fishing technology with conventional fishing technology, by months and operation types (day and night time).