小型底びき網漁船で使用する離着底兼用トロール網の開発

Development of semi-pelagic/bottom trawl net for a coastal trawl fishery

 

要旨

伊勢湾内の小型漁船でも曳網可能で,海底付近に生息する生物の漁獲を減少させる代わりに中層に分布する生物の漁獲を期待する,トロール漁具を開発した。この漁具は曳索の長さを調整することでグランドロープは着底したままでオッターボードの離着底を実現し,漁具が海底に接触する面積を従来の漁具よりも小さくすることができる。この漁具の曳網中の形状を計測したところ,従来のものと比べて,漁具が掃過する海底の面積は小さくなったが,漁具の濾水容積は最大値で1.9倍と推定された。

 

キーワード: オッタートロール,漁具設計,離底曳網,沿岸漁業

 

 

ABSTRACT

We engaged the development of semi-pelagic/ bottom trawl net, which mainly targets off-bottom species instead of catching demersal species, for coastal trawl boats in Ise Bay, Aichi, Japan. Bottom contact of otterboards could be controlled by changing warp length and the semi-pelagic/bottom trawl net can reduce the area, where the gear contacts to the seabed, than conventional trawl net when otterboards kept away from seabed. The measurement of gear dimension during towing suggested that the filtered water volume of semi-pelagic/ bottom trawl net was approximately twice of conventional trawl net, while swept area was less.

 

 

 


伊勢湾と三河湾内で操業する小型機船底びき網漁業では近年,対象種であるシャコOratosquilla oratoriaとマアナゴConger myriasterの資源水準の低下1)が懸念されており,これらの種を保護するための漁具改良が検討されている(水産庁Web: http://www.jfa.maff.go.jp/sigen/isewan.html)。しかし,この底びき網漁業の水揚げ金額は1980年代以降年々減少しており,単純にこれらの種の漁獲を減少させる,すなわち漁業者の収入を減少させるような漁具改良は受け入れられない可能性がある。そこでシャコやマアナゴを対象としなくとも,できるだけ収入の減少を招かないような漁具改良を考えたい。この漁業は,海底付近に生息する生物とともに中層付近に生息するイボダイ,カマス,イシモチなども漁獲している。2) 仮にこれらの生物の漁獲を増大できれば,シャコやマアナゴの漁獲の減少に伴う収入の減少をある程度補填できることになる。そのためには鉛直方向の開きが大きな網口で海底から海面方向に厚みのある層を曳網したい。我が国の漁業制度において曳網漁業は,漁船の大きさと開口装置の有無,操業水域などで分類されており,漁具の海底への接触は考慮されていない。3)しかし,沿岸水域は様々な漁業種によって利用されており,漁具が完全に海底から離れた中層曳網はシャコやマアナゴの保護の目的には合致するものの,船びき網漁業などと調整上の問題を引き起こす可能性がある。

そこで,本研究では漁具の一部は着底するものの海底との接触面を小さくすることでシャコやマアナゴなど海底近くに生息すると考えられる生物種への漁獲圧力を減少させ,かつ中層に分布する魚をより多く漁獲できるように網口高さを大きく保つ漁具の開発を目標とする。漁具と海底との接触面を小さくする漁具開発は,底びき網の海底擾乱4)の問題に対応して進められており,オッターボード(以降,OBと略記する)だけを着底させる漁具5,6)や網だけを着底させる漁具7)などがある。これらの漁具は離底トロール漁具semi-pelagic trawl fishing gearと呼ばれる。5)また,本研究ではこれらの漁具の曳網方法を離底曳網と呼ぶ。沖合・遠洋トロール漁業のなかには,対象魚群が海底近くに分布する場合には着底〜離底曳網を,海底から離れて分布する場合には離底〜中層曳網を行うものもある。8-10)これらの漁業で使われる漁具は中層トロール漁具Mid-water trawl fishing gearと呼ばれ,9,10)使用方法と名称が必ずしも一致しない。この漁具は,中層曳網を行った場合に鉛直方向の開きが大きくなり,より大きな網口断面積が得られるように設計され,対象とする生物の鉛直分布に応じて網口の断面形状をある程度変化させることができる。これらのような漁具を我が国の沿岸漁業で使用した例は無いが,対象とする小型漁船に導入できれば,離底曳網により中層に分布する生物の漁獲を従来の漁具よりも期待できる。また,着底曳網も行うことができれば従来の対象種の漁獲にもある程度対応できる。そのために,前報11)で明らかにした小型底びき網漁船の曳網能力と現用漁具の水中形状を基に,着底〜離底曳網が可能な離着底兼用トロール網semi-pelagic/bottom trawl netの設計・製作と曳網実験を行った。

 

 

材料と方法

 

設計 離着底兼用トロール網は,北米でスケトウダラなどを対象に使用されているHard Bottom Snapper Trawl Net(米NET Systems Inc., http://www.net-sys.com)を原型とした。この網型は上・中・下に分かれた短い袖網(以降,それぞれを上袖網,中袖網,下袖網と呼ぶ)で構成され,それぞれの袖網に1本ずつ,片袖に計3本の網ペンネントが連結され,網ペンネントに作用する上下方向の力を分散させることで,中層トロール網のように網口の高さをより高くできるよう設計がされている。また,生物の上方向への逃避を阻止できるよう,上部の袖網がスクエアと共に曳網方向に張り出す,一般的な着底トロール網と似たオーバーハング構造も有する。このように原型のHard Bottom Snapper Trawl Netは中層トロール網と着底トロール網の双方の特徴を持ち合わせている。この網を以下に示すように,対象とする漁業における網の規模や漁獲対象生物に応じた目合に合わせるとともに,網口の高さを維持するために,ヘッドロープカイト(0.6×0.6m×2枚,0.72m2,以降,カイトと呼ぶ)を取り付けた。12)この網の曳網中の想定形状をFig.1に示した。

 研究対象とした漁業では,シャコを主対象とする網と,スズキLateolabrax japonicusを主対象とする網が使用されている。離着底兼用トロール網は導入に際して漁業者の同意を得やすいように,設計速力と水平方向の開きをできるだけこれらの現用網の値(3.5 kn10.8m11)に近づける必要があると考えた。また,伊勢湾で使われている現用漁具の抵抗の最大値は16.74kNであり,11)漁船の曳網能力の上限を反映していると考えられたので,設計速力における漁具抵抗の最大値も同程度に抑える必要がある。そしてこれらの制約条件下で網口の高さを現用網の最大値(約1.8m11)よりも大きくすること ,すなわち網の濾水容積を現用網よりも大きくすることを目標とした。したがって,この網の網口の断面積は現用網のそれよりも大きくなるので,抵抗を上限値までに抑えるために,新たな網に配する網地の目合は現用の網に比べて大きいものを採用した。現用網はスズキを主対象とする網の袖網には150mm目合の網地が使われ,コッドエンドに向けて目合は次第に小さくなり,コッドエンドには60mm目合の網地が使用されている。同様にシャコを主対象とする網には,袖網で48mm目合,コッドエンドで23.3mmの網地が使用されている。離着底兼用トロール網は抵抗を抑えるために袖網には最大240mm目合の網地を採用したものの,コッドエンドに向けて次第に120mm90mmと目合を小さくし,コッドエンドの目合はシャコを主対象とする網と近い25mmとした。

現用漁具は生物の駆集効果を期待してグランドロープと網ペンネントおよびハンドロープに,ポリエステルストランドを一重または二重に巻いたコンパウンドロープ(直径50-70mm)を使用している。これに対して離着底兼用トロール網は海底付近に分布する生物の駆集をそれほど期待しないこととして,グランドロープには現用のものと同程度の太さとなるゴム管(直径80mm)を採用し,網ペンネントとハンドロープには直径14mmのワイヤを採用した。

以上の検討を加えて設計した離着底兼用トロール網の設計図を前報と同じ形式11,15)Fig.2に示した。

模型実験 設計した漁具の曳網中の形状と抵抗は,ニチモウ株式会社下関研究所の曳航水槽(LxWxD=100x5x1.5m)において模型実験によって事前に確認した。網の模型はTautiの比較則13)に則り,この水槽の大きさの許す範囲で可能な限り大きなもの(縮尺比λ=1/10,目合比M=0.50,速度比V=0.71,力比F=5x10-3)を作成した。この網模型に横型OB0.126m2,縦横比0.40)を連結した。この実験では,曳索の長さを変えて(実物換算値で130m80mTable 1Experiment number 1,2に対応),漁具を台車で曳航した。そして台車の速力が一定(1.09-1.17ms-1(実物換算値3.0-3.2kn))となった後に水槽底面に描かれた10cm間隔の白線と漁具の位置関係から, 中袖網先端の間隔を水槽上面から目視で確認して記録するとともに,曳索の船側終端に取り付けたバネばかりから漁具抵抗の値を読み取った。

上記の実験方法では台車と漁具の相対的な位置がずれてしまい,網高さを計測できなかった。そこで,OBを取り外して網の曳航位置を台車の直下に移動させ,網だけを曳網する実験を行った。この際にはOBを用いた実験(Table 1Experiment number 2の条件)で得られた袖先間隔と同じになるように曳索の曳点の間隔を調整して網を曳航し,速力が一定となった時点で網口にスケールを鉛直に差し入れ,網高さを水槽側面の観測窓から目視で求めた(Table 1の実験番号3)。また,この実験条件において網口前方に水中ビデオカメラを設置して,網口の形状を撮影した。

実物実験 離着底兼用トロール網を製作して,前報11)と同じ小型底びき網漁船(12トン,農林35馬力)によって,20046月に伊勢湾内の水深21.624.1m,底質が砂の海域で曳網実験を実施した。OBには現用の横型OB1.26m2,縦横比0.40)または縦湾曲VOB14)(ニチモウ社製UVH型,アルミニウム製,1.11 m2,縦横比1.53,水中重量56.1kg)を使用した。

実験では曳索の長さの調整により,漁具を離着底させることをねらった。すなわち,曳索長を通常操業と同じ195mとした時には着底曳網を,曳索長を通常操業で使用するよりも短くした時にはOBは海底から離れ,グランドロープの一部が着底した離底曳網を実現することを目標とした。本研究では後述する模型実験結果より,離底曳網を行う際の曳索長を曳索の繋ぎ目となる105mとした。そして,実際にOBが離底しているか着底しているかにかかわらず,曳索長195mのときの曳網条件を着底曳網,曳索長105mのときの曳網条件を離底曳網と呼ぶことにする。曳索長を195mに固定した後に船の主機関の回転数を5分おきに順次1700, 1800 rpmに変更して直進曳網し,次に曳索長を105mに縮めて上記と同様に回転数を変更した。本研究ではこの曳網を1回の実験とした。

曳網中の漁具形状を調べるために,ヘッドロープとグランドロープの中央部,上袖網と中袖網の先端,そしてOBの底面から鉛直方向に現用OBでは0.71m,縦湾曲VOBでは0.65mの位置にそれぞれ自記式水深計(アレック電子社製MDS-MkV/D,最大計測水深200m,分解能0.05m,精度±1%FS)を取り付け,1秒間隔で水深を記録した。記録値は,これらの自記式水深計を水深3-9mの静水中に設置して求めた機差によって較正した。そして,グランドロープに取り付けた自記式水深計の計測値を基準としてそれぞれの取り付け位置の相対的な高さを求めた。さらに漁網監視装置(Simrad社製, PI-32,分解能0.1m,精度±0.25%FS)の距離センサを中袖網の先端に取り付け,表示装置に示された値を1分間隔で記録した。この値を以降では袖先間隔と呼ぶ。

漁具の抵抗は,両舷の曳索とOBの連結部に取り付けた自記式張力計(Micrel社製, Sensor-F,定格容量98kN,精度±0.5%FS)によって1秒間隔で記録した。また,曳網速力は船のGPSに表示される対地速力を記録した。

本研究では前報11)同様に,主機関の回転数を固定してから2分以後の2分間の測定値(漁網監視装置では2個,それ以外の測器では120個)を平均した値を各条件における代表値とした。そして漁網監視装置と自記式水深計の代表値を用いて,袖先からヘッドロープ中央部にかけての網口形状を近似して,網口の投影面積を以下の方法で求めた。

網口形状をFig.3中の破線に示したように,自記式水深計を取り付けたヘッドロープの中央部,上袖網先端部,中袖網先端部,そして下袖網先端部を結ぶ直線で近似した。袖先間隔の半分の長さをW,ヘッドロープ中央部と上袖網先端部,中袖網先端部の高さをそれぞれh1h2h3とする。上袖網先端部と下袖網先端部の間隔の半分の長さw1w2は実測せず,模型実験における離底曳網時の網口のビデオ画像から袖網間隔2Wに対する2w12w2の比率p1p2を求め,袖網間隔の実測値に当てはめて推定した。前方からの網口の投影面積Sは,Fig.3より次の式で表せる。

                                       (1)

                                             (2)

                              (3)

                                        (4)

                          (5)

ただし,である。

計測したWh1h2h3の代表値を上記の式に当てはめ,網口の投影面積Sを求めた。そして下袖網先端部の間隔の推定値と網口の投影面積の推定値に曳網速力を乗じることで,単位時間当たりに網が掃過する海底の面積(掃過面積)と濾過する水塊の容積(濾水容積)を求めた。

 

 

結果

 

模型実験 実験結果をTable 2に示した。以降の結果はTable 2の()内に示した実物換算値を用いて述べることとする。標準構成の漁具は曳索長130mではOBと索具および網が全て着底した。この構成で曳索長を80mにまで縮めると,OBは水槽底面から離れ,網ペンネントと網のグランドロープだけが水槽底面と接触している状態で曳航することができた。漁具の形状も曳索の長さを変更することで変化し,袖先間隔は着底時にはそれぞれ10mであったが,離底時には7mと狭くなった。一方,離底時の網高さは3.4mと現用網の網高さの最大値(約1.8m11)よりも大きくなった。水中ビデオカメラの映像から求めた袖網間隔2Wに対する2w12w2の比率p1p2は,0.44および0.54であった。漁具抵抗は最大でも13kN程度であり,現用漁具の抵抗の最大値(16.74kN)よりも小さいので,対象とする漁船で曳網が可能と考えられた。

実物実験 計測項目の平均値を実験ごとにTable 3に示した。現用OBを用いた漁具は2.9-3.3 knの速力で曳網できた。着底曳網では主機関の回転数1700rpm(2.9 kn)および1800rpm(3.1 kn)曳網時の網口高さはそれぞれ2.75m2.74mで,現用網の最大値(約1.8m)に比べて1m近く高くなった。一方,袖先間隔は1800rpm曳網時には漁網監視装置からの信号が受信できなくなったために欠測したが,1700rpm(2.9 kn)曳網時の値は8.5mで,現用網の最大値(10.8m)よりも小さくなった。

実験を行った水域の海底は平坦で,OBとグランドロープの水平距離(約80m)程度,漁船が前進しても魚群探知機の水深表示値に大きな変化は認められなかった。仮にOBとグランドロープがともに着底しているのならば,OBとグランドロープの水深の差はそれぞれの取り付け位置の水深差(0.71m)となる。この条件で得られたOBとグランドロープの水深の差は0.76m0.75mで,OBは海底よりわずかに離底していたことになる。しかし,これらの値の差は0.040.05mにすぎず,使用した自記式水深計の精度(分解能0.05m,±1%FS)を考慮するとOBは着底していたと考えられる。

離底曳網を行った場合も,OBとグランドロープの水深の差は0.72-0.76mで曳索長195mの条件と変わらなかった。したがって,実際にはOBは着底していたと考えられる。この状態で,網口高さと袖先間隔は1700rpm(3.1 kn)および1800rpm(3.3 kn)曳網時でそれぞれ2.49m6.3m,および2.45m6.5mとなり,曳索長195mの時より小さくなった。

以上の実験における漁具の総抵抗は15.01-17.43kNの値を示し,1800rpmでの曳網時には曳索長にかかわらず目標とした抵抗の上限値(16.74 kN)を若干上回った。

 次に縦湾曲VOBを用いた漁具は,3.3-3.4 knの速力で曳網できた。着底曳網時の網口高さは2.51-2.73mと現用OBを用いた実験の値とそれほど変わらないが,袖先間隔は9.2-9.9mと大きな値を示した。また,漁具の抵抗は13.68-16.28kNと現用OBを用いた実験の値よりも小さくなった。OBとグランドロープの水深の差(1.37m)より,1800rpm(3.4 kn)曳網時にはOBが離底していることが推測される。

 離底曳網時には着底曳網時と曳網速力は変わらないものの,網口高さは1700rpm1800rpm時にそれぞれ3.27m4.07mと大きく増加した。また上袖網先端の高さも2.31m2.99mと高くなっていることがわかった。一方,袖先間隔は網口高さの増加に伴い減少した(7.8mと7.1m)。これらの条件でOBとグランドロープの水深の差は3.93m4.88mであり,OBとヘッドロープの海底からの高さがほぼ同じであった。

漁具抵抗は13.68-18.51kNの間の値を示し,OBが離底して網口高さが大きく増加した回転数1800rpmで曳索長105mの条件では総抵抗は18.51kNと目標とした値(16.74 kN)を上回った。一方,その他の条件では抵抗は現用OBとの組み合わせよりも小さく,目標とした上限値以下となった。

離着底兼用トロール網の単位時間当たりの掃過面積と濾水容積を,既報13)のシャコを対象とする網を1700rpmで曳網したときの値に対する比率としてFig.4に示した。掃過面積はすべての曳網条件で現用網の0.360.60倍と小さくなった。一方,濾水容積の比率はすべての曳網条件で現用網の0.841.89倍となり,特に縦湾曲VOBを用いて曳網すると,濾水容積は,着底曳網の1700rpm時で現用網の1.40倍,1800rpm時で1.51倍となり,離底曳網した際の濾水容積は1700rpm時で現用網の1.57倍,1800rpm時で1.89倍となり,現用網と比べて掃過面積は小さいものの,濾水容積が顕著に大きくなった。

 

 

考察

 

現用OBを用いた離着底兼用トロール網は,模型実験の結果と異なり,曳索長を短縮してもOBを離底させることができなかった。現用OBは外傾して曳網されるように調整11)されているのでOBの揚力には下向き成分が存在するため,曳索長を短縮してもOBは着底していたものと考えられる。また,曳索が短くなったことでOBは十分に展開されず,そのために袖先間隔も現用網に比べて狭くなった。一般に,曳網速力が同じで袖先間隔が小さくなれば網口高さは増大するが,この条件では曳索長が長い曳網の結果と比べても網口高さは小さくなった。離着底兼用トロール網は網口高さを保つためにカイトを用いており,袖先間隔が狭くなったことで網の形状が変化し,これに伴ってカイトの迎角が変化して揚力が小さくなり,網口高さが小さくなったものと考えられる。近年では小型の加速度ロガーを利用して水中で生物の姿勢を計測することも可能となっている。17)今後このような測器を用いてOBやカイトの姿勢計測を行い,OBやカイトの揚力が実際にはどのように作用しているかを明らかにして,漁具の設計と離着底の制御に利用していきたい。

次に縦湾曲VOBを用いた離着底兼用トロール網は, OBを離着底させることができた。縦湾曲VOBは内側に転倒しても復原しやすい構造となっているが,14)外側に転倒した場合には復原が困難である。そこで,今回用いた縦湾曲VOBは低速で姿勢が不安定な時には内側へと転倒しやすいように設計された(ニチモウ社私信)。したがって現用OBとは逆に,縦湾曲VOBは内側に傾き,揚力には上向き成分が存在し,OBが離底しやすいようにこの揚力の上向き成分が作用した可能性がある。また,今回の実験に用いた縦湾曲VOBは既存のものを用い,特に離着底兼用トロール網のために製作したものではない。そこで網とOBのバランスを検討する。水上18)は漁具各部にはたらく力の静的な釣り合いから,オッターボードの面積Aを求める次の式を示した。

                               (6)

ここでRGは曳索を除いた漁具の抵抗,θ1θ2はそれぞれ曳索とハンドロープの展開角を示す。ρは海水の密度,CDはオッターボードの抵抗係数,Vは曳網速力,cはオッターボードの揚力と抗力の比である。この(6)式に設計目標とする漁具の抵抗(16.74kN),速力(3.5 kn)を当てはめた。離着底兼用トロール網のハンドロープの展開角はヘッドロープと袖先間隔の比が0.45となるような漁具と仮定して,目標とする袖先間隔(10.8m)からθ1を着底時で3.7°,離底時で6.9°,θ29°と求めた。そして若干形状が異なるが,特性が公開されている縦横比が1.67の縦湾曲VOBの値(CD=0.48c=2.7514)を当てはめた結果,離着底兼用トロール網を目標通りに曳網するために適当な縦湾曲V型オッターボードの面積は,着底時で0.85u,離底時には1.06uと求められた。今回用いた縦湾曲VOBは着底時には網の抵抗以上の拡網力を与え,離底時には網の抵抗に見合った拡網力を与える大きさであったと考えられる。しかし1800rpmで離底曳網を行った際には袖先間隔と曳網速力が目標値よりも下回ったにもかかわらず,漁具の抵抗は18.51kNと上限と設定した値16.74kNを超えた。この時の実測値を(6)式に代入すると縦湾曲V型オッターボードの面積は1.16uと求まり,用いたオッターボードの面積(1.11u)と近い値なので,水上の方法18)は妥当であり,網とオッターボードはこの状態で釣り合っていた。したがって離着底兼用トロール網の抵抗が大きくなってしまったために,目標とする形状と速力で使用するためには今回用いたオッターボードは小さく,このような漁具各部に作用する力の不釣り合いがOBの離着底に影響を及ぼしていることが考えられる。ただし前報11)で明らかにしたように,沿岸漁業で使用される小型の漁具の設計方法は,浮沈関係や網とOBの抵抗のバランスなどが沖合・遠洋漁業で使用される大型のトロール漁具と異なるので,適切なOBの選定方法を検討する必要がある。また,今回の実験では既存の縦湾曲VOBを使用したが,伊勢湾内では海底と接触する部分の面積が大きい,いわゆるL型OBの使用は禁止されており,2)現用OBと比べて底面の面積が大きい縦湾曲VOBはL型OBの一種と認識される可能性もある。離着底兼用トロール網を漁業の現場に導入するためには,離着底兼用トロール網に見合った性能を持ち,たとえ着底しても海底との接触部分を縮減できるOBの検討が必要である。

OBの離着底に伴い,袖先間隔と網口高さが変化した。これらの変化は開発の目標とした,現用網以上の濾水容積の確保を満足させた。その一方で,1800rpmで離底曳網を行った際には,曳網速力は目標とした速力(3.5 kn)よりも0.1 kn遅く,漁具の抵抗も最大で18.51kNと上限と設定した現用漁具の抵抗の最大値16.74kNよりも1.77kN(約180kgf)大きくなってしまった。そこで漁具の抵抗を小さく抑えるための方策について考察する。まず,上述したようにカイトの迎角が適切でない可能性がある。特に,カイトの迎角はOBが着底した状態を想定して設定された。OBが離底した際にはカイトの迎角は大きくなり抗力が増加するので,カイトの姿勢計測を行い,取り付け方法を調整する必要がある。次に離着底兼用トロール網はすべて一般的なポリエチレン製の網地でつくられており,例えば袖網の目合と網糸の直径は240mm3.2mm,身網の一段目では180mm2.9mmである。これに対して,現用の網では,比較的大きな目合の網地を用いているスズキを主対象とする網で,袖網の目合と網糸の直径は150mm1.3mm,身網一段目では90mm1.0mmと,離着底兼用トロール網に比べて細い網糸を用いている。現用網の網糸の太さは漁業者が経験的に決定しており,適切な強度を持つ素材・直径の網糸が採用されているかは検証されていない。また,網の各部に配する網糸の太さは,各メーカーが蓄積したノウ・ハウによって漁具の規模や目合に応じて決定されており,公表されていない。したがって,網各部の網糸の太さを系統的に決めることは困難であるが,今回試作した離着底兼用トロール網の網糸直径は現用網の2倍以上であり,網糸直径の小さい網地を用いることで,漁具抵抗を設計目標値以下に抑えることが可能であると考える。今後,模型実験や実物実験を通じて検討したい。

以上のように,伊勢湾内で操業する小型底曳網漁船で使用可能な離着底兼用トロール網の設計と曳網実験を行い,縦湾曲VOBとの組み合わせで掃過面積は現用網の半分程度となるものの,濾水容積が最大で現用網の1.89倍となることを示した。今後は本研究で検討した問題点を解決する方向に離着底兼用トロール網の改善を図りたい。また,この漁具の構造を現場の漁業者と検討したところ,漁業者からは直径の小さなハンドロープと短い袖網そして複雑な構造を問題とする声があった。これまで,漁業者はシャコとマアナゴを主対象と考え,ハンドロープと袖網でこれらの生物を駆集して漁獲することを想定して漁具を作成し,操業をおこなってきた。本研究で提案する離着底兼用トロール網は,この現用漁具の設計とは異なり,ハンドロープと袖網が海底近くに生息する生物を駆集する効果にはそれほど期待していない。離着底兼用トロール網の漁獲性能は今後,漁獲実験を行うことで確認したい。また,複雑な構造に関しては,離着底兼用トロール網は各部に斜断網地を多用して設計した(Fig.2)。一方,伊勢湾内で実用されている小型のトロール網は長方形網地を多用した構造で,製作と修理の容易さおよび網地の有効利用に配慮した設計である。この点については漁業者との検討を重ね,構造の簡素化にも取り組んでいる。以上のように漁獲実験とその結果の検討を繰り返すことによって,離着底兼用トロール網の完成度を高める。さらに,伊勢湾内で操業する小型底びき網漁業における対象種の出現時期・場所を,詳細に調査することにより,離着底兼用トロール網を有効に利用できる時期と場所を漁業者に提示する必要もある。

 

 

参考文献

 

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10)Fujimori, Y., Chiba, K., Oshima, T., Miyashita, K. and Honda, S.: The influence of warp length on trawl dimension and catch of walleye Pollock Theragra chalcogramma in a bottom trawl survey. Fish. Sci.,2005; 71, 738-747.

11)松下吉樹・熊沢泰生・冨山実・藤田薫・山ア慎太郎:伊勢湾内の小型機船底びき網漁業で使用されるトロール漁具の設計と曳網中の形状.日水誌,2005; 71, 318-327.

12)松下吉樹・冨山実・熊沢泰生・稲田博史・木下弘実・平山完・藤田薫・山ア慎太郎:伊勢湾底びき網漁業で使用されるトロール網に取り付けたカイトによる網高さの変化.水工研技報,2005; 27, 97-103.

13) Tauti, M.: A relation between experiments on model net and full-scale of fishing net. Nippon Suisan Gakkaishi 1934; 3, 171-177.

14)松田皎:拡網板の流体力特性,「漁具物理学」(松田皎編).成山堂,東京,2001pp.43-63.

15)Anon.: FAO Catalogue of Small-scale Fishing Gear. Fishing News Books, Surrey, 1989, 224pp.

16)不破茂:底びき網のグランドロープの機能に関する基礎研究.鹿大水産紀要,1989; 38, 103-156.

17)Mitani, Y., Watanabe, Y., Sato, K., Cameron M.F. and Naito. Y.: 3D diving behavior of Weddell seals with respect to prey accessibility and abundance. Mar. Ecol. Prog. Ser., 2004; 281, 275-281.

18)水上洋一:曳網漁具設計の実際,「漁具物理学」(松田皎編).成山堂,東京,2001pp.146-160.

 

 

 


Table 1Model experiments in the towing tank

Experiment number

Type of otterboard

Warp length

(m)

Warp length / depth ratio

Towing speed

(ms-1, (kn))

1

2

3

Conventional type + net

Conventional type + net

Net only*

13 (130)

8  (80)

-

8.7

5.3

-

1.09 (3.0)

1.17 (3.2)

1.21 (3.3)

Values in parenthesis designate when converted to the real scale.

*, wing spread was controlled to keep same value of the experiment number 2.

 

 

 

 

Table 2. Results of model experiments

Experiment number

Towing speed

(ms-1, (kn))

Wing spread (m)

Net height (m)

Gear drag (N)

Contact of gear with the seabed

1

2

3

1.09 (3.0)

1.17 (3.2)

1.21 (3.3)

1.0  (10)

0.7  (8)

-

-

-

0.34 (3.4)

64.72 (12944)

63.25 (12650)

-

All gear on the seabed

Otterboards and bridles clear of the seabed

-

 

 

 

 

Table 3Results on gear mensuration

Otterboard

Engine revolution (rpm)

Towing speed over the ground (kn)

Warp length / depth ratio

Spread of middle wing tip (m)

Spread of the top wing tip (m)*1

Spread of the bottom wing tip (m) *2

Headrope height (m)

Height of the top wing tip (m)

Height of the middle wing tip (m)

Otterboard height  (m)

Bottom clearance of the otterboard  (m) *3

Gear drag (kN)

Conventional type

 

1700

1800

1700

1800

2.9

3.1

3.1

3.3

9.0

8.6

4.4

4.4

8.5

-

6.3

6.5

3.7

-

2.8

2.9

4.6

-

3.4

3.5

2.75

2.74

2.49

2.45

1.77

1.75

1.57

1.57

0.61

0.60

0.49

0.50

0.76

0.75

0.76

0.72

0.05

0.04

0.05

0.01

15.01

17.46

15.65

17.43

Nichimo UVH type

 

1700

1800

1700

1800

3.3

3.4

3.3

3.4

8.6

8.7

4.7

4.6

9.9

9.2

7.8

7.1

4.4

4.0

3.4

3.1

5.3

5.0

4.2

3.8

2.51

2.73

3.27

4.07

1.56

1.79

2.31

2.99

0.50

0.70

1.22

1.81

0.46

1.37

3.93

4.88

-0.19

0.72

3.28

4.23

13.68

16.28

15.94

18.51

*1, estimated from (spread of the top wing tip)/(spread of the middle wing tip) ratio obtained in model experiment number 4.

*2, estimated from (spread of the bottom wing tip)/(spread of the middle wing tip) ratio obtained in model experiment number 4.

*3, (otterboard height) – (distance between the bottom of the otterboard and the position where depth logger was attached; 0.71m for conventional type and 0.65m for Nichimo UVH type)

 

 

 

 

 


 

 

 

 

Fig. 1. Schematic diagram of semi-pelagic/bottom trawl net

 

 

 


 

 

Fig. 2. Plan of semi-pelagic/bottom trawl net

 

 

 

 


180°turn to port

 
 


 

 

Fig. 3. Approximation method of the projection area(S=2(S1+S2+S3+S4)) of semi-pelagic/bottom trawl net

○, positions where depth loggers were attached; h1, headrope height; h2, height of top wing tip; h3, height of middle wing tip; W, half length of wing spread; w1, horizontal distance between center of the headrope and top wing tip; w2, horizontal distance between center of the footrope and bottom wing tip.

 

 

 

 

 


 

 

Fig. 4. Changes in swept area and filtered water volume of semi-pelagic/bottom trawl net in comparison with the conventional mantis trawl net towed at engine revolution 1700 rpm.

●, net with conventional otterboard ; , net with UVH otterboard.