新型漁具の袋網選択性の試算
新型漁具を導入した場合に,新たに漁獲対象となる生物種の資源管理を適切に実施できるよう,漁獲物を保持する袋網の網目選択性の検討を行った。
方法
漁具選択性パラメータ集(東海正監修,(社)日本水産資源保護協会編,2003)から,伊勢湾でも漁獲の対象として想定される浮魚と,現状で主要対象種であるシャコとマアナゴの資料を抽出し,それぞれの選択性パラメータを比較することで新型漁具に導入できる袋網の目合を検討した。選定した種を表1.に示す。
表1. 伊勢湾で漁獲の対象として想定される種に対する網目選択性資料
選定種 |
調査された水域・漁業 |
文献 |
浮魚 カタクチイワシEngraulis japonicus タチウオ Trichiurus japonicus シログチPennahia argentata イボダイPsenopsis anomala 底魚 マアナゴ Conger myriaster シャコ Oratosquilla oratoria サルエビ Trachypenaeus curvirostris |
瀬戸内海・小型底曳網 紀伊水道・小型底曳網 東海黄海・以西底曳網 東海黄海・以西底曳網 東海黄海・以西底曳網 瀬戸内海・小型底曳網 瀬戸内海・小型底曳網 瀬戸内海・小型底曳網 |
東海ら,日水誌,60;247-352(1994) 和歌山県,S63広域資源培養管理推進事業報告書(1989) 梁ら,日水誌,65;441-447(1999) 梁ら,日水誌,65;441-447(1999) 梁ら,日水誌,65;441-447(1999) 西川ら,日水誌,60;735-739(1994) 東海ら,南西水研報,26;31-106(1993)東海ら,南西水研報,26;31-106(1993) |
結果と考察
漁具選択性パラメータ集(東海正監修,(社)日本水産資源保護協会編,2003)から得た,選択種に対する網目内周長25mm(現用漁具の袋網目合とほぼ同じ)の袋網と目合を10mm大きくした網目内周長35mmの袋網の選択性曲線を図1に示した。
現在,伊勢湾で使用されている底曳網の袋網とほぼ同じ網目内周長である25mm目合では,マアナゴとカタクチイワシを除いた,タチウオ,シログチ,イボダイ,シャコ,サルエビは体長(タチウオでは肛門長)が100mm以下の小型個体が袋網によって保持されることがわかる。また,マアナゴの50%選択体長は350mm付近にある。東京湾における知見では,マアナゴは約350mmを境に甲板上で選別され,350mm以下の個体は非常に低い市場価値で水揚げされる。この試算結果から,伊勢湾の底曳網の袋網目合は,市場価値のあるマアナゴの保持を目的に設定されている可能性が高いことが示唆された。
一方,網目内周長35mmにおける試算結果でも,選択性曲線は体長の大きな方に移動するものの,この程度の網目拡大では依然としてマアナゴとカタクチイワシを除く,タチウオ,シログチ,イボダイ,シャコ,サルエビ体長(タチウオでは肛門長)の100mm以下の小型個体のほとんどが袋網によって保持される。
以上の検討より,市場価値のある生物だけを保持するための適正な袋網の目合については,現状の目合よりも拡大しても,多くの種に対してそれほど影響が無いことが示唆された。今回の漁具開発においては,船曳網漁業の主要対象種であるカタクチイワシの漁獲までも想定しないため,網目拡大による漁獲量減少が問題となる種はマアナゴ1種であると考えられる(50%選択体長,約500mm)。新たに開発する漁具を用いてマアナゴの漁獲も考慮しなければならない場合には,袋網の網目拡大だけではマアナゴを保持できないため,漁獲物を分離できる構造を今後考えてゆく必要がある。
図1. 既存資料から求めた,新型漁具で想定される魚種(カタクチイワシ,タチウオ,シログチ,イボダイ)と現状で対象となっている主要種(マアナゴ,シャコ,サルエビ)に対する,網目内周長25mmの袋網(上)と35mmの袋網(下)の選択性曲線