北海道日本海における内部波エネルギーを利用した深層水の湧昇利用可能性に関する研究

[要約]北海道日本海の深層水に含まれる栄養塩濃度は、季節躍層下限に形成される等密度面を基準に評価され、同界面上を伝播する内部波エネルギーを有効に利用することにより、深層水の湧昇利用可能性が示唆され、有望海域が選定された。

北海道立中央水産試験場 水産工学室

連絡先

0135-22-2567

推進会議
 

水産工学
 

専 門
 

水産土木
 

対 象
 


 

分 類
 

研究
 

【背景・ねらい】
 北海道の日本海沿岸海域は、周年的に栄養塩の乏しい対馬暖流の影響下にあり、太平洋やオホーツク海と比較して漁業の生産性が著しく低い海域であることから、深層水を利用した当該域の豊度化の可能性調査を平成7年度より実施した結果、潮位差の極めて小さい日本海においても、内部波エネルギーを利用することによって深層水を湧昇利用できる可能性が示唆された。そこで、委託調査により北海道日本海海域における内部波の波高分布を明らかにするとともに、石狩湾の湾口部にサーミスタチェーンを設置し、内部波の直接観測を実施し、その動態について検討した。

【成果の内容・特徴】
 本調査では、当該域に定在的に存在すると考えられる内部波として、津軽海峡の脈動を起動力として季節躍層付近に発生し、北海道の日本海沿岸を北上する内部波を対象とした。深層水の動態を検討するために、1976〜1996年までの北海道日本海における海洋観測データを収集・分析した結果、栄養塩濃度と海水密度に相関が認められ、季節躍層が形成されるσt=27.0の界面を基準として評価すれば、海域の差違や季節変動によらず、同界面付近には燐酸塩0.8〜1.0μg-at/l、硝酸塩10.0μg-at/l、珪酸塩15.0μg-at/l程度の栄養塩濃度が分布していた。図1に同界面の形成水深の季節変化例を示すが、形成水深には地域差が認められ、檜山海域の一部や石狩湾以北では比較的浅い水深帯まで栄養塩が上昇していた。また石狩湾では9月頃に湾口部に界面の上昇海域が認められた。内部波はこれらの界面上を伝播するものと考えられるが、図2は、津軽海峡付近の基準点における波高を1とした場合の内部波の波高比分布を示したもので、界面の形成水深に内部波高を加味すれば深層水の浅海部への上昇の程度が推定できる。図4は1998年9月に実施した内部波観測結果の一例で、石狩湾湾口部及び小樽沿岸(位置は図3参照)における断面水温の経時変化を示したものであるが、両観測点ともに、水温が経時的に周期変動し、変動幅は、例えば石狩湾湾口部における水温5℃の等温線で平均30〜40m程度の波高となる。また、9月18日、大規模な湧昇が発生し等温線は80m以上急激に上昇していた。海底より上昇した冷たい海水は約1日程度遅れて小樽沖まで到達し、石狩湾沿岸一帯の表面水温を約半日間に亘って1.5℃以上低下させた。図5に示す石狩湾湾口部における内部波(30分間隔で15日間観測)のスペクトルは、日本海の固有振動に由来する120時間、潮汐に由来する24、12時間のパワーが卓越し、ほぼ内部潮汐波の特性を有していた。図3は積丹半島周辺における9月の内部波の推定波高、波向、波速分布を示したものであるが、これより、内部波は基本的には沿岸域に沿って本道日本海側を北上し、その一部が湾内に進入して波高の極端に高い海域(岩内湾で最大100m、石狩湾で80m程度)を形成した。このような内部波エネルギーの集中する海域は、深層水の湧昇利用に有望な海域と考えられ、本調査によって、北海道日本海沿岸全域における深層水の湧昇利用のための有望海域が選定され、有望海域に人工湧昇流発生構造物を設置した場合の湧昇効果が試算された(詳細は発表論文等を参照)。

【成果の活用面・留意点】
 今回の調査では、内部波高の北海道日本海全域における分布は、水理模型実験(委託調査)をもとに推定しているため、歪み模型に起因する精度面の制約や、内部波の沿岸浅海部への這い上がりの再現性など今後の研究の進展を要する点も認められる。また、石狩湾湾口部において1997、1998年の何れも9月に内部波の直接観測を実施したが、沿岸域における内部波の観測事例が極端に少ないことから、今後の観測データの蓄積が研究精度の向上に重要である。


【具体的データ】

  

        図1 内部波伝播界面の季節変化例(σt=27.0)



 
  図2 内部波高比の分布図




    図3 内部波高・波向分布図





        図4 内部波と湧昇の発生状況

 
                         
   図5 内部波のスペクトル

 
【その他】
 研究課題名:日本海海域における深層水利用技術の事業化調査
 予算区分:道費(科学技術振興費)
 研究期間:平成11年度(平成7〜12年度)
 研究担当者:瀬戸雅文(研究の一部は福井県立大学に委託して実施)
 発表論文等:日本海栄養塩の内部波による沿岸輸送特性について、海洋開発論文集、第13巻、1997.
          日本海深層水と内部波の挙動解析、海洋開発論文集、第14巻、1998.
         深層水湧昇利用に向けた内部波エネルギー調査について、海洋深層水利用研究会全国集会、第3回、1999.