キタムラサキウニ優占域におけるコンブ群落形成に必要な流動条件 | ||||||||
[要約]ウニの食害により海藻の生育が阻害されている磯焼け地帯では、波動流速がある程度以上強ければ、ウニの摂食が抑制され、海藻群落が形成される。キタムラサキウニが優占する北海道南西部日本海沿岸の磯焼け地帯において、コンブなどの海藻の胞子が着定し、群落を形成するまでに必要な流動条件を現地観測によって明らかにした。 | ||||||||
水産工学研究所・水産土木工学部・水理研究室 |
連絡先 |
0479−44−5937 | ||||||
推進会議 |
水産工学 |
専門 |
水産土木 |
対象 |
海藻・うに |
分類 |
研究 | |
[背景・ねらい]
わが国沿岸ではウニの高い摂食圧によって海藻の生育が阻害されている磯焼け状態の岩礁が広く存在し、
大きな問題となっている。これまで藻場を回復させるために食害防止などの、多くの試みがなされてきた
が、有効な方法は未だに開発されていない。しかしそのような磯焼け地帯でも波当たりの強い所では、浅所
で強まる波動流によってウニ摂食活動が抑制されるために普遍的に藻場が形成される。従って、潜堤などの
海底の嵩上げによって流動を強めることができれば磯焼け海域においても藻場の継続的な形成を期待するこ
とができる。それに必要な流動条件を解明するため、ウニ優占域に入植した海藻の分布境界における流速調
査を実施した。
[成果の内容・特徴]
@キタムラサキウニが優占する北海道南西部日本海沿岸の磯焼け海域において、コンブなどの海藻の胞子着
底〜成長期にわたり、石膏塊と電波流速測定を行った。(図1)。
A磯焼け地帯への海藻の入植は12月下旬から3月中旬まで観察された。
B水温は例年より高めに推移したため(図2)ウニの摂食が活発であった。そのため、海藻が入植出来た領
域は、波の影響が恒常的に強い水深の平年より浅い領域(約2m以浅)に限られた。
C現地での流速測定の結果、コンブ群落が形成された下限水深における有義波動振幅Umax,s(流速測定の大
きい方から1/3の平均)の平均値(表1)は、室内実験により明らかにされているキタムラサキウニの侵入
可能な限界の流速振幅幅0.4m/sに近いが、外海に面した急斜面(側線A)で遮蔽領域(側線B、C、D)よ
り大きくなることがわかった。これは波動流速が地形に依存するためである。
D群落形成下限水深付近に位置していた側点R2における流速測定の結果(図3)、群落が形成されるための
流動条件として、胞子着底〜成長期にわたりUmax,s<0.4m/sとなる確率が0.5未満になることが必要であ
ることを明らかにした。
[成果の活用面・留意点]
キタムラサキウニの優占する磯焼け海域において藻場造成を計画する場合、上記条件が流速増加工法(潜
堤、囲い礁などの海底の嵩上げ構造物)の設計条件の目安になり得る。その流動条件が海藻入植期に満たさ
れれば、ウニが高密度に生息し、また水温が高めに推移しても海藻(ただし、種類は分からない)群落が、
管理を要することなく毎年形成すると期待される。
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:磯根生物の分布に及ぼす流動の解明
予算区分:経常
研究期間:平成10−12年度
研究担当者:水産土木工学部・水理研 川俣 茂
発表論文等:川俣 茂:北日本沿岸におけるウニおよびアワビの摂食に及ぼす波浪の影響とその評価、博士学位論文(北海道大学)、2000