バカガイの漁場造成技術に関する基礎的研究 |
[要約]
バカガイの資源回復に向けた母貝集団造成技術の確立を目的として,北海道島牧村沿岸の漁場において,底質性状,底質攪乱の程度およびマクロベントスの群集構造を調べるとともに,本種の潜砂限界を実験的に検討し,移殖に適した放流場所の選定手法を示した。 |
北海道立中央水産試験場 水産工学室 |
連絡先 |
0135-22-2567 |
推進会議
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水産工学
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専門
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水産土木
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対象
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他の二枚貝
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分類
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研究
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【背景・ねらい】北海道の日本海南西部沿岸において,バカガイは重要な二枚貝資源に位置付けられているが,近年は資源低下に伴う産卵母貝の不足によって稚仔の発生がほとんど認められない状況にある。本研究では,バカガイ資源の回復に向けた母貝集団造成技術の確立を目的として,島牧村沿岸のバカガイ漁場において環境調査を行うとともに,本種の生息に適した底質の安定条件を実験的に検討した。
【成果の内容・特徴】
(1)1999年7月,10月,2000年2月および4月に,島牧村沿岸のバカガイ漁場を対象に32調査点を設定し,スミス・マッキンタイヤー型採泥器による底質採集を実施した。採集した底質の中央粒径値,淘汰度(粒径のサイズ分布を表す指標値)および全有機炭素・窒素量を計測するとともに,マクロベントスの群集解析を行った。また,波浪による底質攪乱の程度を推定するため,エネルギー平衡方程式による平面波浪場の解析を行い,各点のシールズ数(流れによる砂粒子の動きやすさを示す指標値)を算出した。さらに,振動流水槽を用いて殻長28.5〜85.0mmのバカガイが流動に伴う底質攪乱によって砂中から掘り出される限界(潜砂限界)を実験的に調べた。
(2)底質は,水深が増すほど細粒化するとともに有機物量が増加したが,中央粒径値,淘汰度および全有機炭素・窒素量の値に季節変化はみられなかった(図1,2)。シールズ数は,水深が増すほど低下したが,各点の値には波浪の季節変化に起因した変動がみられた(図3)。これより,本漁場の底質性状は年間を通して安定しているが,底質の安定性は季節的に大きく変動することが示された。
(3)マクロベントス群集は,チロリとハスノハカシパンが優占するA群集,ツノヒゲソコエビとエゾオフェリアが優占するB群集,キサゴが卓越するC群集,およびハイイロハスノハカシパンが卓越するD群集の4つに区分された。また,水深10m以浅は,年間を通してD群集に覆われていたが,水深10m以深は,構成種の新規加入によって群集の分布パターンが季節的に変化した(図4)。
(4)平均殻長10mmのバカガイは,中央粒径値0.20〜0.24mm,淘汰度0.68〜0.71,シールズ数0.07〜0.16,全有機炭素量0.60〜0.80mg/gおよび全窒素量0.18〜0.21mg/gの範囲に出現するとともに,C群集の分布範囲とほぼ一致した。
(5)バカガイの潜砂限界を表すシールズ数ψbには,殻長L(mm)との間に有意な相関が認められ(r=0.998,P<0.01),ψb=0.004L+0.099により表現できた。これにより,本種の移殖放流に適した底質の安定条件が殻長ごとに明らかとなった。また,殻長10mmのバカガイのψbは0.14と算出され,この値は上述の出現範囲の上限とほぼ一致することから,上式の妥当性が示された。
【成果の活用面・留意点】各バカガイ漁場において平面波浪場の解析に基づいたシールズ数の算定を行うとともに,放流個体の殻長に対する潜砂限界シールズ数を越えない区域を放流場所に選定することによって,波浪による減耗を抑えた効果的な母貝集団造成が期待できる。
【具体的データ】
【その他】
研究課題名:バカガイの漁場造成技術開発試験
予算区分 :道費(水産試験場費)
研究期間 :平成11〜12年度
研究担当者:櫻井 泉
研究論文等:北海道島牧村沿岸のバカガイ漁場における底質環境とマクロベントス群集.日本水
産学会誌,印刷中.
バカガイの潜砂に及ぼす流れの影響.H12日本水産学会春季大会要旨集,78,2000.