平成18年度水産工学関係研究開発推進特別部会水産調査計測シンポジウム報告

                                           主催責任者:水産工学研究所長

1.開催日時及び場所:平成19年1月16日、銚子商工会館大ホール
2.参加者所属機関及び参加者数:31機関、61名
3.結果の概要

議  題 結  果  の  概  要

 水産音響調査技術による計測可能対象を広げる


1.研究経過、研究成果に関すること
 漁業資源の逼迫、エネルギー問題、および水産物需給の国際的な構造変化などを背景として、漁業資源を合理的に利用するための資源管理の必要性は、これまで以上に強く求められている。水産資源の質的・量的な評価のための水中計測手段としては、水中で減衰の大きな光などの電磁波よりも音波が適している。また、音響調査には、航走しながら情報を直接的に収集できるため、タイムラグとバイアスを押さえることができるメリットがある。計量魚群探知機等を用いた音響水産資源調査は、浮魚資源を中心に次第に定着してきたが、当該調査手法は、より広範な計測対象に対応することが求められるようになっている。さらに、音響技術は、調査計測手段に留まらず、様々な探査・漁労に応用されることによって、従来は、主として勘と経験に頼っていた漁業技術をより効率化・近代化するための手段としても期待されている。このような状況を背景に、本シンポジウムでは、音響探査技術がより幅広い対応力を持つために研究・開発が将来進むべき方向について展望した。
 シンポジウムでは、音響水産資源調査技術の発展に関するレビューに続き、ツノナシオキアミ、カタクチイワシ、サンマなどに対して、最近実施された音響特性に関する研究成果、太平洋系のサバ・イワシ類の音響資源調査の実際、音響機器以外の海中センサー類との統合システム等の事例が紹介され、これらを素材として、研究者、調査担当者、行政部局の関係者及び機器開発メーカーなど幅広い参加者の間で意見を交換し、議論を深めた。

2.当該専門分野の研究の推進方向に関すること
 上記の話題提供及び総合討論の結果、以下のように意見を集約した。
(1)音響調査技術は、管理型漁業をリードできる技術である。
(2)研究・開発には、資源量把握(調査研究用機器開発)と、漁獲効率の向上(漁業用機器開発)の2つの方向性が求められる。
(3)研究用の機器が開発され、その成果が漁業用機器に生かされることによって漁業が効率化され、メーカーも漁業者も共にステップアップしてきた歴史があり、調査研究用、漁業用機器には根本的な違いはない。
(4)資源量把握と漁獲効率の向上には、それぞれ別の貢献方法があり、前者では、コホート解析の対象となる前の幼魚が集群し、種毎に別れていることを利用した加入前調査、後者では、選択漁獲のための対象識別という出口が考えられる。
(5)加入前の調査では、漁獲される前の段階で評価することになるため、資源量だけでなく、魚種や長さを推定する技術開発も重要になるので、対象識別は重要である。
(6)漁船にソナーを装備することによって、漁場探索時間が短縮され、昼間の操業が可能になったため、結果的に省エネになったという事例もある。エンジンや船体の改善に加え、情報化による省エネも期待できる。
(7)最近の研究がターゲットストレングス(魚体などの反射の強さ、TS)に集中しているのは、近年の技術的進歩によってSV(計量魚群探知機の出力で、TSで割ることによって魚等の分布密度に返還できる)が簡単に出せるようになり、より正確なTSが求められるようになったことが主因のひとつである。研究内容のバランスは大切だが、今後も継続してTSを研究する必要がある。特に、海外ではTSの現場測定が盛んに研究されており、水工研で行われているプロジェクト研究の成果も期待される。

3.産・官・学の連携に必要な事項について
今回は、最近実施された音響特性に関する研究成果、音響資源調査の実際、音響機器以外の海中センサー類との統合システム等の事例紹介が中心であったが、詳細な質疑討論が行われ、参加者の関心の高さが感じられた。今後、本手法をさらに普及させ、その高度化をはかるためには、研究・開発の方向性と到達目標を明確にし、推進していく必要がある。特に、調査現場、メーカ、大学、研究所などの各々の機関が、その有効性を示すと同時に問題点を抽出するという共通認識を持って調査研究に当たることが重要である。
今回、資源量把握と漁獲効率の向上という2つの方向性についての議論の中で、加入前調査と選択漁獲の2つの出口が示された。さらに、調査研究用機器と漁業用機器の開発には根本的な違いはないこと、及び両者にとって対象識別技術が必要不可欠であり、そのためには、対象生物の音響特性解明に関する研究をさらに推進しなければならないことが確認された。
 本会議が、こうした連携協力の足がかりとなり、産官学が連携した取組へ発展できるよう、共同研究などを通じて研究事例を増し、手法の高度化につなげていくことが必要である。今後、問題点をさらに整理・分析し、調査対象や対象魚種を絞るなど調査現場のニーズに即したテーマで再度シンポジウムを開催するなど、産官学の連携に向けた取組気運を一層高めるとともに、将来的には産官学連携による競争的資金の獲得なども視野に具体的な連携を図って行くことが、ますます重要となる。今回のシンポジウムの結果を踏まえ、水工研でフォローアップしていきたい。


 その後の処理等

 当日の配付資料に議論の概要等を追記し、再整理した上で、次年度に報告書として発行する予定である。