平成18年度水産工学関係研究開発推進特別部会漁業技術シンポジウム報告

                                           主催責任者:水産工学研究所長

1.開催日時及び場所:平成18年6月29日 宮津ロイヤルホテル(京都府宮津市)
2.参加者所属機関及び参加者数:65機関、137名
3.結果の概要

議  題 結  果  の  概  要

 大型クラゲによる漁業被害軽減対策技術の開発


1.研究経過,研究成果に関すること
 大型クラゲは近年頻繁に大量出現し,漁業に大きな被害を与えた。大型クラゲによる漁業被害を軽減するために,独立行政法人水産総合研究センターでは,平成16年度より3年計画で,農林水産技術会議の先端技術を活用した農林水産研究高度化事業の一環として「大型クラゲの大量出現予測,漁業被害防除及び有効利用技術の開発」を推進している。当所はこの中で,漁業被害防除技術の開発を担当している。
 一方,この事業と並行して,水産庁は水産業構造改革加速化技術開発事業として,大型クラゲによる漁業被害防除技術の開発を(社)マリノフォーラム21(対象:定置網)及び(社)海洋水産システム協会(対象:底びき網)が事業主体となり実施してきた。
 これらの事業の成果や問題点等の情報を関係者間で横断的に共有し,現場の漁業者の方々の要望等も反映しながら,今後の大型クラゲによる漁業被害軽減対策技術の効率的な開発をはかるために,平成18年度水産工学関係研究開発推進特別部会漁業技術シンポジウム「大型クラゲによる漁業被害軽減対策技術の開発」を京都府宮津市において開催した。
 シンポジウムでは,始めに表中層トロール網,ポップアップアーカイバルタグ,ピンガーを用いた大型クラゲの遊泳深度について水産工学研究所から報告した。続いて,駆け廻し漁業における漁業被害軽減対策として,兵庫県漁業協同組合但馬支所および京都府立海洋センターから報告があった。板曳き網漁業については,新潟県水産海洋研究所および水産工学研究所から報告があった。さらに,大型クラゲの洋上駆除について水産工学研究所から報告があった。また,定置網漁業における漁業被害軽減対策については,垣網の大目化による対策技術の開発が島根県水産技術センター,福井県水産試験場,京都府立海洋センター,岩手県水産技術センター,箱網に入った大型クラゲの排出技術の開発については,ホクモウ株式会社から報告があった。

2.当該専門分野の研究の推進方向に関すること
 上記のそれぞれの経過報告,質疑応答並びに総合討論から,以下のような意見・要望に集約した。
(1)曳網中は大型クラゲは網に張り付いており,揚網が始まった段階で網の中に落ちてくることが多く,奥袖や袋網の入り口で入網を阻止する手法もある。大型クラゲの完全な分離が困難であれば,通常の操業ができる程度に分離できればよい。
(2)定置網の周辺で大型クラゲを駆除するために,網起こし船でも使える駆除漁具の開発と沿岸用の駆除漁具を至急開発して欲しい。
(3)定置網の垣網の大目化については,現場では漁獲が減ることを懸念している。具体的なデータが欲しい。
(4)漁獲対象種の保持と大型クラゲの排出のバランスが重要である。
 農林水産研究高度化事業は平成18年度も実施するので,以上の意見や要望を考慮して各機関が平成18年度の研究開発を継続実施することとした。(社)マリノフォーラム21及び(社)海洋水産システム協会に委託された事業は平成17年度で終了するものの,可能な範囲でフォローアップをすることとした。また,本シンポジウムの内容を当所が報告書としてとりまとめ,関係者間の情報の共有と成果の有効活用に努めることとした。

3.産・学・官の連携に必要な事項について
 大型クラゲに関する農林水産研究高度化事業は平成16年度から3年計画で進めている。また,水産業構造改革加速化技術開発事業は,平成17年度から農林水産技術会議の地域食料等産業再生のための研究開発等支援事業の中に組み込まれ,定置漁業における大型クラゲ対策網の開発と,大型クラゲの混獲防除機能を持つ底びき網(駆け廻し)漁具の開発が平成16年度と17年度に実施された。いずれの事業も,産・学・官の連携のもとで進められており,相互に情報交換を密にして効率よく進めることが求められた。当所は,農林水産研究高度化事業における大型クラゲによる漁業被害防除技術の開発を実施するとともに,前述の大型クラゲ関連2課題のアドバイザーを務め,各機関との連携を図りつつ本課題を推進してきた。昨年度に,これまでに報告された成果をとりまとめ,漁具改良マニュアル −大型クラゲ対策のために− 第1版〜第3版を作成して関係先に配布した。また,全国漁業協同組合連合会が発行した「大型クラゲ対策のための漁具改良等の手引き」の作成に協力した。
 シンポジウムは当初の想定を大幅に上回る出席者を迎えるともに,多くの新聞,テレビ,通信社等マスコミの取材を受け,大型クラゲに関する関心の高さが伺われた。その他,大型クラゲ以外にも,内湾におけるミズクラゲやアカクラゲによる漁業被害の実態や対策技術に対する関心が寄せられ,これらについても今後の課題として整理する必要がある。


 その後の処理等

 当日の配付資料に議論の概要等を追記し,再整理した上で報告書として年末を目途に印刷発行し,関係者に配布する予定である。