平成17年度水産工学関係試験研究推進特別部会水産調査計測シンポジウム報告

                                    主催責任者:水産工学研究所長
 
1.開催日時及び場所:平成18年1月13日、水産工学研究所会議室

2.参加者所属機関及び参加者数:46機関、101名

3.結果の概要
議題 結果の概要

沿岸・内水面における音響調査の展開



































 

1.研究経過、研究成果に関すること

 沿岸・内水面は、人間活動とのかかわりが深いため、社会の耳目をひきやすい領域である。これに環境問題への危機意識の高まりが加わって、沿岸・内水面域での生物・環境調査に対する社会的ニーズは増えつつある。こうした状況は、水産の分野においても例外ではない。
 魚群探知機など音響機器を用いた調査は、主に沖合において、浮魚類などの現存量や行動の推定に広く利用されている。音響調査の特徴のひとつは、生物と非生物の別を問わず、離れた所からでも、また移動しながらでも、対象物を探知し観察できることにある。調査に当たって、概して調査活動に制約が付き纏う沿岸・内水面では、音響調査のこのような特徴は、大きな利点となるはずである。しかしながら、これまでは、土木工事や測量に関連するものが中心で、生物を対象とした音響調査はあまり行われてこなかった。
 このような状況を背景に、このシンポジウムでは、沿岸・内水面の調査に役立つ音響調査技術の実際を紹介し、あわせて現場にこれを導入する際に起こり得る問題とその解決の方向について議論し、研究連携等の可能性を探ることとした。
 潜水調査・音響調査・衛星リモートセンシングの多次元計測による沿岸浅海域の藻場調査事例、及び計量魚探機・音響カメラ・音響テレメトリー・サイドスキャンソナー・マルチビームソナー等の音響手段が沿岸・河川域で利用されている事例に関する7件の話題提供を受け、これらを素材として、研究者、調査担当者、行政部局の関係者及び機器開発メーカーなど幅広い参加者の間で意見を交換し、議論を深めた。



2.当該専門分野の研究の推進方向に関すること

 上記の話題提供及び総合討論の結果、以下のように意見を集約した。
(1)沿岸・内水面の調査においても、離れた所から対象物を探知できる音響手段は有効である。しかしながら、例えば沿岸の藻場分布調査などでは、地質などの環境調査やフィールドでのサンプリングを併せて行うことが重要であり、このようにして得られた総合的な情報を活用すれば、衛星リモートセンシングによる調査結果なども効果的に利用できるようになる。
(2)今後、沿岸・内水面に本調査手法を普及させるだけでなく、その高度化をはかるためには、さらに多くの事例研究を収集する必要がある。特に、調査現場、メーカ、大学、研究所などの各々の機関が、その有効性を示すと同時に問題点を抽出するという共通認識を持って調査研究に当たることが重要である。
 今回のシンポジウムでは、個々の調査事例に関する詳細な質疑応答を通じて、沿岸・内水面の調査においても音響手段が有効であることが再確認された。また、関連事項として、深海域の調査で曳航体深度を下げるための曳航体やその曳航速度など具体的な内容が検討され、今後の研究推進に当たって有意義な会議であった。沿岸・内水面の音響調査手法の高度化は、水産試験研究の資源計測技術等の開発分野における中核機関として当所が取組べき重要課題のひとつである。特に、当該水域では有用魚種の稚魚や餌料生物などの小型生物が重要な調査対象生物となる。従って、今後とも、小型生物のターゲットストレングスなども含めた対象生物の音響特性解明に関する研究を推進する必要がある。



3.産・官・学の連携に必要な事項について

 今回は、沿岸・河川域における音響調査手法活用の事例紹介が中心であったが、詳細な質疑討論が行われ、参加者の関心の高さが感じられた。さらに、様々な音響技術が沿岸・河川域の水産現場においても、調査・計測手段として有効に活用できることが認識され、その活用への機運が高まったことは意義深い。
 しかしながら、音響調査機器の導入には多大の費用がかかる。特に生物を対象としたモニタリングは長期に及ぶため、数日間のレンタルで対処するのは難しい。さらに、調査担当者が、実際に機器に触れる機会が無ければ、その有効性を認識できない。そこで、第一段階として、当該機器を整備している機関との共同調査等を検討することが提案された。本会議が、こうした連携協力の足がかりとなり、産官学が連携した取組へ発展できるよう、共同調査などを通じて調査事例を増し、手法の高度化につなげていくことが必要である。
 今後、問題点をさらに整理・分析し、調査対象や対象魚種を絞るなど調査現場のニーズに即したテーマで再度シンポジウムを開催するなど、産官学の連携に向けた取組気運を一層高めるとともに、将来的には産官学連携による競争的資金の獲得なども視野に具体的な連携を図って行くことが、ますます重要である。


その後の処理等

 

 当日の配付資料に議論の概要等を追記し、再整理した上で、次年度に報告書として発行する予定である。