平成17年度水産工学関係試験研究推進特別部会漁業技術シンポジウム報告
 
                                           主催責任者:水産工学研究所長


1.開催日時及び場所:平成17年5月25日 福井県水産会館

2.参加者所属機関及び参加者数:54機関、84名

3.結果の概要

議  題 結  果  の  概  要

 大型クラゲによる漁業被害の防除技術開発の現状

1.研究経過、研究成果に関すること

 大型クラゲは近年頻繁に大量出現し、漁業に大きな被害を与えた。大型クラゲによる漁業被害を軽減するために、独立行政法人水産総合研究センターでは、平成16年度より3年計画で、農林水産技術会議の先端技術を活用した農林水産研究高度化事業の一環として「大型クラゲの大量出現予測、漁業被害防除及び有効利用技術の開発」を推進している。当所はこの中で、漁業被害防除技術の開発を担当している。
 一方、この事業と並行して、水産庁は水産業構造改革加速化技術開発事業として民間等からの提案公募型事業を展開し、大型クラゲによる漁業被害防除技術の開発に係わる採択課題を(社)マリノフォーラム21(対象:定置網)及び(社)海洋水産システム協会(対象:底びき網)に委託・実施中である。
 これらの事業の成果や問題点等の情報を関係者間で横断的に共有し、今後の防除技術開発の効率的な推進をはかるために、平成17年度水産工学関係試験研究推進特別部会漁業技術シンポジウム「大型クラゲによる漁業被害の防除技術開発の現状」を福井県福井市において開催した。
 シンポジウムでは、はじめに平成15年に来遊した大型クラゲによる漁業被害の現状について、当所が実施した関係先に対するアンケートの集計結果をもとに、漁業種類別の被害の状況や問題点について報告した。
 続いて、水産業構造改革加速化技術開発事業の平成16年度の中間報告が行われた。定置網における大型クラゲ漁業被害対策について、(社)マリノフォーラム21が実施している事業の中での島根県、石川県、福井県における取り組みとその成果(網目の選択性や箱網内での大型クラゲの分離・排出など)について、福井県水産試験場及びホクモウ株式会社の担当者より報告があった。底びき網における大型クラゲ漁業被害対策について、(社)海洋水産システム協会が実施している事業の中での島根県漁業協同組合連合会、兵庫県漁業協同組合連合会おける取り組みとその成果(試験水槽における模型クラゲを使用した分離網の基礎実験から、操業実験における分離効果の検証など)について、島根県水産試験場及び兵庫県漁業協同組合連合会の担当者より報告があった。
 農林水産研究高度化事業の平成16年度の成果として、当所より、日本海で大型クラゲにポップアップタグを取り付けて行った行動調査結果の報告、及び新潟県の小型底曳き網を対象に開発した漁業者が使いやすい取り外し式の大型クラゲ混獲防除装置(JET)の構造と分離性能について報告した。また、新潟県海洋研究所より底びき網(板曳き)、京都府立海洋センターよりかけまわし式底びき網及び定置網、を対象とした大型クラゲの分離排出を目指した漁具改良の経過が報告された。

        
2.当該専門分野の研究の推進方向に関すること

 上記のそれぞれの事業における経過報告、質疑応答並びに総合討論から、以下のような意見・要望に集約した。

 (1)ポップアップタグによるクラゲの行動調査は世界初の快挙であり、被害防除対策を考える上で有用な情報となる。しかしながら、まだ調査点数が少ないため 、 引き続き調査を実施し、大型クラゲの行動等を明らかにするとともに、その知見を防除技術の開発に活かすことを期待する。

 (2)大型クラゲの光や音に対する反応の調査、また、音響機器による大型クラゲの探査なども検討してはどうか。

 (3)研究の成果に期待している。そのためには、研究者は漁業現場に足を運び、その状況を良く把握した上で研究を進めてほしい。現場調査等に協力することは可能である。(定置網の漁業者)

 (4)シンポジウム資料や報告書について、漁業者に分かりやすい表現や図表等に工夫がほしい。(漁業者)

 以上の意見や要望を念頭に、各機関が平成17年度の研究開発を継続実施することとした(島根県漁業協同組合連合会の底びき網は平成16年度で終了)。また、平成16年度の1年間で開発した技術と引き続いて取り組むべき課題を明確にして、当所が報告書としてとりまとめ、本シンポジウムの案内先及び大型クラゲの被害に関するアンケート依頼先の漁業協同組合に配布するなど、関係者間の情報の共有と成果の有効活用に努めることとした。


3.産・官・学の連携に必要な事項について

 大型クラゲに関する農林水産研究高度化事業は平成16年度から3年計画で進めている。また、水産業構造改革加速化技術開発事業は、平成17年度から農林水産技術会議の地域食料等産業再生のための研究開発等支援事業の中に組み込まれたが、定置漁業における大型クラゲ対策網の開発と、大型クラゲの混獲防除機能を持つ底びき網(駆け回し)漁具の開発の2課題が採択された。いずれの事業も、産・官・学の連携のもとで進められており、個別の課題の間で情報交換を密にして効率よく進めることが求められている。当所は、農林水産研究高度化事業における大型クラゲによる漁業被害防除技術の開発を実施するとともに、前述の大型クラゲ関連2課題のアドバイザーを務め、各機関の連携を図りつつ本課題を推進する立場にある。従って、研究の3年目に入る平成18年度の早い段階で大型クラゲをテーマにした漁業技術シンポジウムを再度開催して、関係者の一層の連携強化と研究成果の取り纏めに努める。
 平成16年度には、幸いにも15年度や14年度のような大規模な大型クラゲによる漁業被害は発生しなかったにも拘わらず、シンポジウム当日は当初の想定を大幅に上回る出席者を迎えるともに、多くの新聞、テレビ、通信社等マスコミの取材を受け、大型クラゲに関する関心の高さが伺われた。また、今回は関係者の協力により、会場を日本海側の福井県福井市に設定した。このように、漁業関係者、特に漁業者が出席しやすい環境でシンポジウムを企画・開催したことが、漁業者から直接意見や要望が出されるなど、産・官・学の関係者にとって有意義なシンポジウムとなった要因の一つと考えている。


 その後の処理等

 当日の配付資料に議論の概要等を追記し、再整理した上で報告書として年末を目
途に印刷発行し、関係者に配布する予定である。