平成14水産工学関係試験研究推進会議
漁業技術部会報告
 
 
主催責任者 水産工学研究所長
 
1.開催日時及び場所
開催日時:平成15年1月15日(水)
場所:水産工学研究所 研究管理棟 会議室
 
2.出席者所属機関及び人数
67機関 128名
 
3.結果の概要
 
議  題 結  果  の  概  要

明日の漁船像を考える









































































 

1.研究経過,研究成果に関すること。
 平成13年に水産物の安定供給の確保,水産業の健全な発展を基本理念とした水産基本法が制定され,平成14年には水産基本計画が策定された。このような状況を背景に,漁船の分野では資源管理と漁業生産性を両立する漁船像を明らかにすることが重要な課題になっている。

 一方,平成8年に国連海洋法条約が締結され,200海里漁業体制が定着したが,その後,漁業資源の減少,魚価の低迷,水産物輸入量の増大,漁船漁業従事者の高齢化,減船の増加,代船建造量の激減,漁船漁業経営体の債務超過などの由々しき問題が台頭してきている。このような社会的要因の急変が漁船の将来像の予測を難しくしている。また平成14年に規制緩和推進により漁船船型に影響を及ぼしてきた動力漁船の性能基準が原則廃止され,従来よりも自由に設計できる技術環境が作られたとされている。しかし,この改正が漁船のあり方にどのように影響していくのかは明確でない。

 以上の混沌ともいえる状況において,資源管理と経営改善を主要なコンセプトとした漁船建造の先駆的な模索が試みられつつある。また,北欧の先進的な漁業の実態が知られつつあり,船型と性能の比較研究も開始されている。さらに従来の概念にとらわれない試設計も行われつつある。このような試みによって我が国の漁船は北欧漁船とはかなり異なった状況にあることが明らかになってきている。

 そこで,この分野の専門家による最新の情報,具体例など9件の話題提供を中心に,明日の漁船像の具体化に向けたこの研究分野の今後の研究の方向性並びに産官学の研究連携について,漁業者を含む関係者で討議した。

2.当該専門分野の研究の推進方向に関すること。
 上記話題および総合討論の結果,以下のように意見を集約した。

1)システム的な追求
 漁船を構成するシステムモジュールである漁具,船体,装備機械などを総合的に捉えるシステム設計の必要性及び評価関数を「採算性」とする考え方は,参加者の共通認識と結論づけられた。当面のアプローチとして,漁船をシステムとして捉え,@採算性を評価関数とした適正な漁船と漁具のサイズの計画,A採算性向上に直結する省人化,B鮮度保持技術の研究が必要である。特に,漁船船体の検討には漁具の情報を,また漁具計画では漁船船体の情報を考慮した総合化が必要である。

2)総トン数の問題
 総トン数規制の問題が大きな論点になった。動力漁船の性能基準の原則廃止の施策がどこまで漁船設計の自由度を保証しているかについて検証する必要がある。85トン型沖合底曳網漁船に対し,総トン数を意識せず北欧型漁船に準じた設計の結果,180トン型に至った事例。85トン型同漁船に対し,日本型と北欧型との折衷案として日本型の基本特徴を残しながら船幅を北欧型にした場合,総トン数が107トンに至った事例が紹介された。このように,現行法規下では漁船として漁業現場への導入が困難な事例がある。総トン数の問題は,行政側が積極的に取り組まねばならない課題であるが,漁船設計の自由度をどこまで制約しているのか,明日の漁船像にどのような影響を及ぼしているのかについての科学的な検討が必要である。

3)北欧漁船との比較事例に基づく検討
 北欧型漁船との比較研究により,今まで不明であった北欧型漁船の実態が明らかになった。特に,当所で実施した北欧型漁船の研究成果は,北欧型漁船の実像の解明だけでなく,日本漁船の問題点を分析する上での比較基準,明日の漁船像追求のためのヒントになり得るとの共通認識が得られた。このようなことから,@日本の漁業環境と漁業形態の特殊性を考慮した漁船システムの追求,A北欧型漁船に認められる合理的理念,科学的手法に基づく明日の漁船像の追求,B採算性を評価関数に,適正な船規模,総隻数などの検討や総トン数など法規制との関係の検討を含む漁船システムの追求,が重要課題であることが明らかになった。

 その他,発想を転換し,現状の日本漁船の形態にとらわれない漁船の開発の必要性などが指摘された。

3.産・官・学の連携に必要な事項について
 本課題の追求では,漁船に関わる技術的課題のみならず,行政,産業界が受け持つ課題が重複している。例えば,論点となった総トン数問題の科学的な解明,資源維持を考慮した漁船の追求,各種の実設計を前提とした研究などは,漁業者を含む関係者の連携なくして解決できない。今後も種々の機会を捉えて情報交換や研究協力等の連携を図る必要がある。なお,専門水研である水産工学研究所が実施すべき課題であるので,研究の連携・協力等に際しては,当所が中核機関としての役割を果たす必要がある。
 
その後の処理等

 
 今回の部会における検討結果を報告書としてとりまとめ,年度内に発行する予定である。